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蝶になった夢を見るのは私か それとも 蝶の夢の中にいるのが私なのか 夢はうつつ うつつは夢


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空が薄明るい光を放ち、人々の動きがゆうるりと街に流れ出す頃。

無遠慮に注がれる外の光を厚いカーテンで遮った彼女の部屋は、いつものように薄暗い。
壁際のベッドの上は無人である。
寝息は部屋の中心に置かれた長椅子の上から聞こえてくる。

古びた布張りのクッションの上では
人の形に浮き上がった毛布が一定間隔で上下に動いていた。
毛布の端から黒い髪が覗いて、蛇のような形でシーツの上に陰りを流している。

平穏なる眠りをこよなく愛する彼女の、寝姿である。

突然、彼女の鼓膜に電子音を伴った不愉快な振動が届く。

いつも聞き馴れている癖に、いつまでたっても聞き慣れない音。
頭の中から少しずつ眠りを追い出そうとする室内電話 - イン・フォン - の響き。
それはコールに答えるまで鳴り止まない仕組みになっている。

離れた場所からでも有機的な音声の類を拾ってくれるイン・フォンは
数年前に彼女がマーケットで手に入れた代物で、受話器を取らなくても通話できる。

少しの手間も惜しみたい怠惰を身上とする彼女は、生来の不精さからそれを衝動買いした。
大抵の場合は、階下からの呼び出しに使われるイン・フォンだったが
時には、彼女にとって迷惑なこと極まりない目覚ましアラームとしても効果がある。

たった今のように。

PiPiPiPi ……

甲高い電子音は続く。

動きが止まっていた毛布の隙間から、根負けしたような吐息が響き、そろりと手が延びてくる。
眠たげな動きを見せる彼女の指が辺りを探り
銀色の無機質なフォンの送話ボタンへとたどり着くまで、それでもかなり時間がかかった。

「……だ?」

誰だ、と尋ねているつもりの彼女だが、前半が声になっていない。

『やっぱり寝ていたな』

スピーカーから声が響く。
思わず反抗したくなるほど断定的な男の声。

彼女は毛布から顔を出し、声の主を思い出そうとして朧気な記憶の中を手探りした。

半分閉じたままの瞼に、乱れた髪が厭わしげに降りかかる。
髪を掻き上げて視界が明らかになると同時に
スピーカーの向こうにいる男の名前が彼女の頭の中に浮かび上がった。

「ああ……諛左 (ユサ) か」



→ ACT 1-3 へ

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ACT 1  - All is fish that comes to my net -



     煙草の火先から螺旋を描く紫色の煙が
     唇から吐き返される白い靄に取って代わる

     一度体の中を通すだけで
     煙の毒はわずかに浄化され
     非幾何学的な形を取りながら空気中に分子の渦を還元していく

     毒性は全て身体の内に閉じ込められて
     細胞の組織にゆるやかに染み透る

     肉体をフィルターに代え
     紫は白となる

     紫の毒

     次第に心も身体も妖しい紫色に変化させていく酸性の毒

     鮮やかに
     ひそやかに
     紫色の毒は人を変え
     空気を変え
     街を変えていく

     この灰色にくすんだモノトーンの街を

     倦怠と欲望と
     そして虚偽に満ちたこの街を


     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


朝の気配が忍び寄る感触は、ある種の人間にとって決して好ましい代物ではない。
それが彼女の持論である。
勿論それは 『ある種の人々』 の中に、彼女自身を含めた上での考えである。

眠りは平穏であるという。
ならば何故、人はその平穏を打ち破ってまで目覚めるのか。
何故、身を起こし、無慈悲に降り注ぐ太陽の光の下へと這い出ていかなくてはならないのか。

結局のところ、朝起きるという行動は、
人々にとって 「そうしなければならない」 という一種の脅迫概念になっているのだろう。
目覚めなければならない。
シーツの中から抜け出さなくてはならない。
仕事に行かなくてはならない。

そして、それらを拒否する者には 『怠惰』 という形容詞を否応なしに与えられてしまうのだ。

しかし彼女にしてみれば 「怠惰でどこが悪い」 と主張せずにはいられない。
人々にどう思われるか。
そんなことは彼女には関係ない。
それよりも彼女にとっては、ささやかな願望の方がよほど重要なのだ。
つまり、いつまでも曖昧なまどろみの中を夢見心地で漂っていたい、という願望の方が。

しかし、望みはいつも打ち破られる。
その日の朝も例外ではなかった。



→ ACT 1-2 へ

かねてより、ほのめかしていた次の作品「PURPLE HAZE」(以下、PH)を
開始いたします。

近未来物、と言っておりましたが
あまりそんな感じではないことに気づき、
言わなきゃよかった……と、ちょっと後悔。ま、いーか?

水晶では、一文がかなり長めでしたが
PHでは、意識して文章を短めにしました。
短くできないところは、途中で改行して、
言葉の途中で次の行に渡らないよう細工してあります。

なので、読んだときのイメージが水晶とはかなり違うかもしれません。

とりあえず、日曜以外はできるだけ更新していきます。

水晶をお付き合いいただいた方々、
PHの方も可愛がってやってください。よろしくお願いします。
水晶異聞の各章ごとにカテゴリー作っていましたが
序章から終章まで全部まとめて
「水晶異聞・第一部」というカテゴリーにしてしまいました。

カテゴリー増やすのが嫌なので……。

さて。

相変わらず、母は言い間違い、
そのたびに脱力するワタシ。

今日もお一つありました。

久しぶりに近所のお寿司屋さんに行こう、ということになり
店の前まで行くと。

「えーっと、ああ、大丈夫。
アガナイ中って書いてある」

……アガナイ?

……贖い?


お母さん。

店の前の札に書いてあるのは。

『商い中』。


何かを贖わなくてはならないほど
この寿司屋さんは悪いことしてません。たぶん。

何もそう、難しく読み間違えなくても。


なんてことはない、日常の一コマでした。

水晶異聞第一部が終わったので、
調子に乗ってエラそーに、目次っぽい記事を作ってみました。

TOP画面に必ず入るように、日付を操作しました。

各回の話に跳べるように
ムダかも、と思いつつリンクなども貼ってみましたので。そんだけ。

しばらくは日記のみの更新で……。

ウチの母は、言い間違いがしっちゃかめっちゃか多い。
はじめのうちは、「それ、違うって」とツッコんでいたけれど
最近ではそれもメンドーになり……。

「最近、テレビでイツキヒロユキって見ないねえ」

お母さん、それは多分、五木ひろしです。いや、絶対。

「○○さんとこの△△さんが、シャケンで働きに出てるんだって」

お母さん、たぶんそれは「ハケン」。

「チャゲ鍋って、おいしいのかね」

お母さん、チャゲは美味しくないと思う。


んもー、ワザとじゃねーの?


最近のヒットは

『黒豚和牛』。

どっちなんだ。豚か、牛か。


正しくは、黒毛和牛。


お母さん。
プロフィール
HN:
J. MOON
性別:
女性
自己紹介:
本を読んだり、文を書いたり、写真を撮ったり、絵を描いたり、音楽を聴いたり…。いろいろなことをやってみたい今日この頃。
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