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蝶になった夢を見るのは私か それとも 蝶の夢の中にいるのが私なのか 夢はうつつ うつつは夢


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やっと終わった……という感のある、PURPLE HAZE ACT6。
遅ればせながら、終了に際して恒例の言い訳……ではなく、感想など。

この章で、生まれて初めて 「格闘シーン」 を書きました。
格闘、というより、格闘っぽいシーン、と言った方がいいか。

なにしろ、生まれてこの方、実生活の中で 「格闘」「バトル」 などといったモノには
トンと縁がないワタシ。
小さい頃に、姉にフトン蒸しにされて暴れたぐらいの経験しかございません。

プロレスや K-1 などをテレビで見るのは好きだけれど、
技に詳しいわけでもなく、さて、どう書こうか……と迷った挙句、
結構、気の抜けたシーンになってしまいました。

最初、頭の中では、ケル・ナグール的な格闘イメージがあったんですが、
ちょっと待てよ、と思い直し……。

格闘するのは、J。
何といっても、この女はモノグサです。めんどくさがり屋です。

ということは、たとえ格闘であっても、出来る限り自分の労力を惜しんで
あまりハデに立ち回ることはしないんじゃないだろうか、と考えまして。

そうなると、殴る・蹴るなんてエネルギーの浪費はもってのほか。
身軽さを武器にして、避けて避けて、その上で一発決める……的な方が
キャラに合ってるのでは?

ということで、その辺りを意識して書いてみたんですが……
あまり狙った通りのイメージにはならなかったかもしれません。
男B (結局、この章では名前を出さなかった……) が
思いがけず間抜けっぽいキャラにしてしまったので
J 同様、書いてるワタシの毒気も抜けたせいでしょうか。

頭の中にあったイメージは、体術っぽいものです。
相手の力を利用して攻撃する、というヤツ。

もともと、ワタシは
1人の人間が、バッタバッタと大勢の敵を打ち倒し……なんて、
絶対あり得ない話だと思っているので、それだけはどうしても避けたかった、というのもあります。
J だって無敵ではありません。
一応、ごく普通の一般人よりは荒事に慣れている、という設定ではありますが。

まあ、格闘シーンについては、今後も登場しそうなので、要検討というところです。


そして、最後の最後に、いきなり阿南が再登場。
最初は、諛左を助けに向かわせたんですが、
それはちょっとツマラナイなあ……と、思っていたら、勝手に阿南が出てきてしまいました。
ビックリです。
書いてるワタシも、まさか……でした。いやホント。
不思議なものです。
ワタシが組み立てて、ワタシが書いている物語のはずなのに、
ワタシの意図とは関係なくキャラクターが勝手に動くことって、本当にあるんだな、と。

で、困ってます。

どうする。
どうなる。
今後の展開。

ヘンなところで阿南が出てきたため、この先、どう進めたらいいのか。

書き終わってから気がついたけど、
ACT 6 では、物語の中心となっている筈の 「ハコムラヒジリ捜索」 については、
ハの字も出てきてないし。
どこにいるんだ、ヒジリ。
そして、どうするんだ、ワタシ。


……こんな感じで ACT 7 も進んでいくと思います。
まだまだ長引きそうですが、今まで読んでくださっている奇特な方、
また今後もお付き合いの程よろしくお願いいたします。

ちなみに、ACT 7 の開始はもう少し後になります。
しばらくは日記のみの更新になりそうです。


以上、反省のような、言い訳のような
そんなあとがきでした……。ふう。
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出来の悪い切り絵のようだった。
背後の光景の中、男の形の闇が、静かに佇んでいる。
街灯から離れて立つ男の顔は逆光で暗く、表情が読めない。
しかし、男の視線が自分に注がれていることは判る。

そのシルエットは J の記憶データにある、どの男にも当てはまらなかった。
なんてバカでかい男。
緊張感を巡らせながらも、J は頭の片隅でどうでもよいことを考える。
この場に現れる可能性が一番高いのは、勿論、諛左だが、
目の前の男は、長身な諛左よりさらに頭一つ分、背が抜きん出ている。
それに比例して体格も一回り大きく、さっきのタカギよりは頑丈さにおいて、やや勝るだろう。

タカギ。
J の直感が告げる。
タカギを撃ったのは、きっとこの男だ。
何故? いや、理由はともかく。
間違いない。

男と J は無言で向き合った。
互いに相手の様子を窺い、探り合っている。そんな空気感が周囲を漂う。
男に殺気はない。
空き地の入り口を示す、背の低い石造りの門に寄り添うように、ただ立っている。

しばしの睨み合いの後、J はゆっくりと肩の力を抜いた。
どうやら敵意はなさそうだが、それ以外の意図が読めない……。

そんな J の意向を察したのか、男はゆっくりと歩き始めた。J に向かって。
反射的に J は背を反らしたが、それ以上の動きは見せない。

5m。

3m。

2人の距離が少しずつ縮まり、暗い影にすぎなかった男の姿に、うっすらと明暗が現われる。
男が近付くごとに、長身ゆえの威圧感が見えない塊りとなり、
視覚的なプレッシャーが J を押しやろうとする。

1m。

ようやく灯りが届く範囲内に足を踏み入れた男の姿は、
しかし、光の中でさえ、どこか陰りのある印象を J にもたらした。
それは巨体を包むダークスーツと、暗い髪の色のせいだったかもしれない。

そして、アイスブルーの瞳。
皮膚の色が変化した、頬の銃創。

やがて手を伸ばせば何とか届く距離を挟んで見た男の顔は、
J の頭の中に放っておかれた過去のファイルに、確かに記されていた。

記憶の一つが、J の中でむくりと身を起こす。
記憶、というほど遠くなく、
むしろ、ごく最近どこかで見た、そんな身近な覚えのある顔。

「……あ」

思い出した。
目を眇めながら男の顔を数秒観察した J は、思わず相手を指差した。

「あんた……ハコムラの」

番犬。

つい昨日、センターエリアにある豪奢な笥村邸を訪れた時に、
玄関先で睨みを効かせていた大柄なドーベルマン。
それは、目の前にいる男に似ていなかったか?
名前は忘れたが。
数秒の凝視の末に、J は確信した。


だが、相手の正体が判ったことで、安心どころか逆に J は少し混乱した。

「な、なんで、あんたがここに……」

男は答えない。
返事の代わりなのか、世にも不機嫌そうな表情を、そのいかつい顔に浮かべただけだった。

再び無言が支配した場の中で、まだ驚きを抑えきれずにいる J の耳に、
遠い空の下で響くパトカーのサイレン音がようやく聞こえてきた……。



-ACT 6-  END


→ ACT 7-1 へ

J を自己嫌悪に陥らせている原因は、他にもある。

ドジを踏んだ。

タカギ程度の男を相手に、自分が怪我を負うなんて。
その思いが気分の悪さに追い討ちをかけていた。
J は右耳の上あたりを指で触れ、乾いた血がザラつく感触と、かすかに響く痛みに眉をしかめた。
石縁にぶつけた頭が、まだ少しクラクラする。

相手の力を見切り、見くびり、結果として調子に乗って軽んじてしまった感は否めない。
コートを引っ張られた時の不自由感を思い出し、J は忌々しげに舌打ちした。

正直に言えば、確かにあの時は少しヤバかった。
あの距離で、あの位置から発砲されていたら、いくら身軽さを自負する自分でも、
避けきることができたか、どうか。
もしも誰かがタカギを撃ってくれなかったら、どうなっていただろう。

誰か……誰が?

急速に J の思考がその点に集中する。

撃ち抜かれたタカギの右腕の傷を見た限りでは、発砲した相手は相当な腕の持ち主に思える。
恐らく、撃ったのは空き地の入り口あたりから。
J の視線がその方向へと向けられる。
勿論、そこには誰もいない。

最初は、諛左が撃ったのだと思った。
事務所で銃声を聞きつけ、J が関わっているであろうことを察して
(そういうことに関しては、あの男はやたらとカンが働くのだ) ここに駆けつけた……。

実際に、これまでにも似たような局面で J は諛左に何度か危ないところを救われている。
それに姿を見せずに陰から助ける、という行動は、いかにもあの男がやりそうなことだ。

だが、男達が去った後も姿を現わさないところを見ると、どうやら諛左ではないようだ。
何よりも、たとえどんなに上手く物陰に身を潜めていようと、
長年慣れ知った諛左の気配は、いるだけで判る J である。
今回は、その気配がなかった。

しかし諛左でないとすると、J には他に思い当たる人間はいない。
ここに J が来ることを知っているのは、あーちゃんぐらいだが、
あの金髪の情報屋がそれ程の銃の名手とは聞いたことがない。
では、ダウンエリアには珍しく正義感あふれる住人の1人がたまたま通りすがり、
見るに見かねて J に加勢した……まさか。
そんなことは、夢にもないだろう。

嵐が去った今ですら、空き地の周囲にある家々はひっそりと静まり返り、
ここで起こったことと自分達とはまったくの無関係で、何も見ていないし、聞いていない、
そう自分達に言い聞かせながら、固く扉を閉ざしているに違いない。
恐らく、警察がこの辺りを調べに来たとしても、住人達は知らぬ存ぜぬを通すだろう。
臆病で警戒心が強いという短所も、時には J の助けになることがあるのだ。

もしかしたら、あれは J を助けるための発砲ではなく、
単にタカギを狙ったものであったかもしれない。
あの男なら、きっと行く先々で数多くの個人的怨恨を買っていることだろう。
その中の一つが、ああいう形でタカギに向けられたのだとしても、不思議なことではない……。

あれこれと考えるのが面倒になった J は、
いつものように結論を出さないまま思考を打ち切った。
気がつけば、J を取り巻く夜の空気は数時間前に比べて冷ややかになり、
じっとしているだけで、じわりじわりと寒さがしみこんでくるようだ。

とっとと帰ろう。
千代子さんの入れるコーヒーが懐かしく、恋しい。

相変わらず濁ったままの噴水の水から目を離し、
ゆらりと立ち上がった J は、もと来た路地へ戻ろうと足を向けた。

だが、一歩も進まないうちに、その歩みが止まる。
 

数分前まで誰もいなかった筈のその場所に、男が、1人立っていた。

あまり物事に動じない性質の J だが、突然現れた男の姿にはさすがにギョッとした。
何の物音も聞こえなかった。
何の気配も感じなかった。
だが、いつの間にか近い位置に現れた男の存在に、J は自然と身を硬くした。


→ ACT 6-29 (完) へ


     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


喪服の集団がしめやかに姿を消し、空き地から人の気配が遠ざかるにつれて、
最後まで正体を明かさなかった女 - J - は噴水の縁に腰掛けると、
3秒ほどぼんやりした後、深く、長いため息をついた。

また、やってしまった。

浅からぬ自己嫌悪の念が J の頭の中を駆け巡り、傷の痛みと重なって
どうにも晴れない曇り空 (しかも若干、雨がち) に似た心境となって J に重くのしかかる。

いつもこうなる。
何故だろう。

いや、何故だろう、というのは、我ながら白々し過ぎる感想だ。
自分ではどうにも制御できない例のスイッチが、また今日もオートマティックに ON になった。
それ以外に理由はない。
なんて判り易い理由だろう。

ポケットに手を差し込んで煙草を探すが、つぶれてくしゃくしゃになった外箱に触れて、
望みの物を切らしていたことを思い出す。

自分はそれほど短気な方ではない筈だ。
カラ箱を弄びながら、J は目を閉じた。
すぐにカッとなって相手を怒鳴りつけたり、癇癪を起こして手を出したりすることは、ほとんどない。
そう、ほとんど。
むしろ我慢強い方だと思っている。

……確かに、時折、気の置けない相手に対しては辛辣な言葉の応酬を吹っかけたり、
苛立ちや不機嫌が顔に浮かぶのを隠そうともしないことが、ないわけではないけれど。
それだって微々たるものだ……たぶん。
極端な暴力に至ることなどは、ほとんどない……たぶん。

ともかく、事なかれ主義では決してないが、
それらの突発的な感情、あるいは激情の類は極力抑え、
心の奥底にある何重ものドアの向こうに押しやってしまうのが、普段の自分なのだ。
いちいち受け止めて腹を立てるよりも、何でもない風に流してしまう。
それが世の中を渡る上では、楽でもあり、穏便でもある。

だが。
時々、自分ではどうしようもない小さな外的要因が少しずつ積み重なって、
せっかく押し留めている諸々の感情を侵食しようとすることがある。
たった今のように。

それは例えば、
理由も判らないまま尾行された。
噴水の水がいつもより濁ってみえた。
月に見られているような錯覚を覚えた。
尾けていた男達の服装がお粗末だった。
気に食わないハコムラの依頼がまだ途中だ。
あーちゃんに奢らされた。
煙草が切れた。

……等々、
これらの細かい (そして他人から見ればどうでもよく、当事者にとっては言いがかり的な) 云々が
重なって重なって重なって、
挙句の果てに、自分の内側に隠しているドアを無遠慮にぶち破り、
いつも抑制している激しい感情のスイッチを剥き出しにしてしまったのだ。

これらの要因のうち、どれか一つでも起こっていなければ、
自分だってあれほど激することはなかっただろう。そうに違いない。

運が悪かった。
または、星の巡りが悪かった。
でなければ、月の周りでも、ダウンエリアの八卦でも、何でもいい。
そういう自分の力の及ばないところで、自分の短気は発動する。
仕方のないことなのだ……。

……と、ここまでの一連の発想は、この手の出来事が起こった後にいつも、
J が自己嫌悪と抱き合わせで考える、理屈無視の自己弁護だった。

要するに、言い訳である。

大抵の場合、これを聞かされるのはパートナーの諛左なのだが、
辛抱強く聞かされた後に諛左の口から出るのは決まって 「……それで?」 という言葉であり、
その無敵の一言によって、J はいつも撃沈されるのである。


→ ACT 6-28 へ

「それにしても、いいのかね、あんなハデな銃声。
ここいらのショカツには犯罪者並みに厄介な刑事がいるからさ。
自分のテリトリーで誰かが銃を……なんてことになると、相当しつこく嗅ぎ回るんじゃないかな」

しかし、男B の方はその厄介な刑事、すなわち NO という名物刑事のことだが、
その存在を知らないようで、女の台詞に対してピンとこない顔つきをしている。
この界隈の情報にはかなり疎いらしい。

「そうなんですか? だったら、急がないと」

「急ぎなさい、急ぎなさい。ま、あたしはその前に消えるけど」 飽いたように女が欠伸をした。
「でもあんた達は、この辺りには詳しくなさそうだし、うまく逃げられればいいけどねぇ」

女の言葉が、半ば落ち着きを取り戻しかけていた男B を、再度慌てさせた。
確かに、パトカーが界隈をウロウロし始める前に、
女の言うとおり、この場を立ち去らなければならない。

男B は急いで他の2人に合図してタカギを担ぎ出した。
巨体の男の体重は、複数の男の力でも支えるのが難しかったが、
最後には半ば引きずるような形で、どうにか体勢を整えると、
できるだけ足早に空き地の入り口に向かった。

「……重そうだね」 と、その様子を見ていた女が言う。
「タカギさん、捨ててけば? ジャマでしょ」

「いや、さすがにそういうわけには」

女の目は半ば本気を帯びている分、怖い。
仕方のないことだが、タカギに関しての女の印象は、明らかに好意的なものではないようだ。
置いていきたいのは山々ですが、と付け足しそうになり、無理やり言葉を飲み込む。
歩みながら、男B は女を振り返った。

「しかし、結局、大事になってしまいましたね。こんな予定じゃなかったのに」

「散々だな」 他人事のように女は言った。

「散々です」

男B は意味ありげな視線を女に向ける。それに気づいた女は、少しムッとしたようだ。

「何さ、あたしのせいだとでも?」

「いえ、それは……」

少なからず、原因はあると思うんだが。
言葉を濁しながら男B は口には出さずに呟いた。

ふいに、何となくこの場を立ち去りがたい、という奇妙な感情が男B の胸中に湧き上がり、
その思いは、男B 自身をも少しばかり戸惑わせた。
もう一度、振り返って女を見る。

先程まで空に浮かんでいた月は、いつの間にか現れた雲の陰に隠れ、
女のほっそりとした身体を照らすのは、街灯のぼんやりとした光のみだった。
白い顔に、半ば乾きかけている血の跡ときつい視線の印象が相まって、
ひどく獰猛な、それでいて冷酷なまでに頭の良いサバンナの獣を思わせる。

怖い物見たさ、という気持ちが、今の男B の心情に一番近かったかもしれない。
何となく目が離せない。

しかし、男C が焦れったそうに、おい、と男B を促し、さらに

「さっさと行きな。その葬式帰りのような格好は目立つんだよ。
長居されると、こっちが迷惑だ」

叱るような、突き放すような女の口振りに背を押され、ようやく男B は空き地を後にした。


幾つかの路地を、できるだけ急ぎ足ですり抜ける男達の姿は、
もしも目にする者がいれば、かなり異様な光景に見えたことだろう。
だが幸運なことに、この辺りの住人はさほど物見高くはないいようで、
どんよりとした夜の気配の中、男達と出くわす人間は1人もいなかった。
もっとも、建ち並ぶ家々の閉ざされた窓や扉の陰から、
ひっそりと通りを窺っている視線はあるかもしれないが、男B にはどうでもよかった。

このまま裏道を行けば、車が待機している場所まで無事にたどり着けるだろう。
タカギという荷物を打ち捨てていくことができれば、もっと時間は短縮されるだろうが、
先程女に答えたように、そういうわけにもいかない。


とにかく変わった女だった。
肩にかかる巨体の重さを疎ましく思いながら、
男B は、背負っている男と、あの女との対峙シーンを思い出していた。

途中から事の成り行きがおかしな方向へ首を向けてしまったとはいえ、
(それは全てタカギのせいだ、と男B は信じて疑わないが、
男B の気が抜けたコークのような言葉の応酬にも原因があることには気づいていない)
なかなか面白い出会いではあった。

風のように動く女。
単なる護身術以上の腕前を持っていた。それが非常に興味深い。
激昂している時は、恐らく手をつけられないだろうが (実際、そうだったし)、
落ち着いて相対している分には、さほど面倒な人間でもないように思える。

そういえば。
男B は、すっかり疎遠になっていた当初の目的を思い出した。
結局、女の名前は判らずじまいだったな。

まあいいさ。
成功したとはお世辞にも言えないが、組織のトップは自分には甘いことを男B は知っている。
最後には大目に見てもらえるだろう。

そんな甘い憶測に思いを馳せつつ、ただ、仕事とは離れたところで、
女の正体を知ることができなかった、それを残念に思っている自分に気づき、
男B は少しばかりうろたえた……。


→ ACT 6-27 へ

「それにしても、本当に誰が撃ったんですかね」

落ち着かなげな視線を周囲に走らせる男B。

「もしかしてお嬢さん、ボディガードとか、いるんじゃないですか?」

「そんなモノを雇う財政的余裕は、全くないぞ」

「そういうことは胸張って答えなくてもいいんですよ。
まあ、お嬢さんならガードしてもらう必要もないでしょうが……あ」

男B は女の頭に目をやり、顔をしかめた。

「それより、お嬢さんの方は大丈夫なんですか? なんかイタそうですよ、その頭」

噴水の縁にぶつけた拍子に傷を負ったようで、女の頬を幾筋かの血が伝っている。
お嬢さんって言うな、と男を睨むと、女は無造作にこめかみに手をやり、
顔をしかめながら傷の程度を確かめた。

「問題ないだろう」 女は事も無げに言った。
「ちょっと切れてるだけだから、こんなん、すぐ直る」

「すみません。怪我させるつもりは最初からなかったのですが、成り行き上……。
迂闊なタカギに代わってお詫びを」

「最初から、あんなのを連れてこなけりゃ良かったんだ」
「そうすれば、あたしももう少し穏便に対応できたのに。そうだろ?」

そうですね、とも、そうでしょうか、とも言えず、やはり男B は、はあ、と生返事をする。

「それ、跡が残るんじゃありませんか?」

「どれ」

「それです。その傷」

男B の言葉に、今度は女が呆れたような目を向けた。

「そんなこと、気にするの?」

「はあ、やっぱり女性だし、顔に傷はちょっと……。それに私は血が苦手なんで。
子供の頃から、怪我しそうな危ない遊びはしたことがないんですよ」

「……」

外見や行動にそぐわない暢気さや、ある意味、育ちの良さすら感じさせるような男の言葉に、
女は完全に毒気を抜かれたようだった。
拍子抜けした、と言った方がいいかもしれない。

「……あんたって……いや、あんた達って、よく判らない連中だな。
脳細胞がネズミ並みの凶暴男がいるかと思えば、あんたはフェミニストの坊ちゃんで……」

女は男C、D をちらりと見た。

「後の2人は仕事放棄のナマケモノときてる」

ナマケモノ扱いされた2人は、肩をすくめてみせただけで、何も言わない。

「とりわけ仲間意識が強いわけでもなさそうだし。
この手のことに、慣れているのか、いないのか。本業は別のところにあるのか。至極不可解だ。
街のど真ん中で銃を使おうとする、その浅墓さもそうだけど、
消音器もつけてない不用意さにも呆れるね。笑っちゃうよ、大笑い」

はあ、と、相変わらずの男の返事。
それ以外に返す言葉がないのだ。全部当たっている。

「次回からは、人選にも気を配ります」

「次回はあたしと関係ないところで勝手にやってください」 女は剣呑な視線を向けた。
「ホントは誰に頼まれて尾行したか、全員殴り倒してでも聞き出してやろうと思ってたけど、
バカバカしくなったから、もういいや。あんた達、どう見ても大した組織じゃなさそうだし」

「いや、一応それなりに知名度はあるんですよ、我々は」

「そういう台詞は、服のセンスを直してから言いなさい」

「これは我々の個人的趣味ではありません」 若干、男B はムキになる。
「念のため言っておきますが、この衣装は、何と言いますか、トップの意向でして。
どこからか入手した 『大災厄』 前のムービー・フィルムが原因なんですよ。
それに出ていたアクター達がこういう格好をしているのだそうです。
それに感化されたのでしょうね。何でも、ニンキョーとか何とかいうジャンルの……」

「どうでもよろしい」

男B の長々とした説明を、女はハサミで切るように打ち切った。
明らかに興味がなさそうだ。


→ ACT 6-26 へ

プロフィール
HN:
J. MOON
性別:
女性
自己紹介:
本を読んだり、文を書いたり、写真を撮ったり、絵を描いたり、音楽を聴いたり…。いろいろなことをやってみたい今日この頃。
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