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蝶になった夢を見るのは私か それとも 蝶の夢の中にいるのが私なのか 夢はうつつ うつつは夢


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「それにしても、いいのかね、あんなハデな銃声。
ここいらのショカツには犯罪者並みに厄介な刑事がいるからさ。
自分のテリトリーで誰かが銃を……なんてことになると、相当しつこく嗅ぎ回るんじゃないかな」

しかし、男B の方はその厄介な刑事、すなわち NO という名物刑事のことだが、
その存在を知らないようで、女の台詞に対してピンとこない顔つきをしている。
この界隈の情報にはかなり疎いらしい。

「そうなんですか? だったら、急がないと」

「急ぎなさい、急ぎなさい。ま、あたしはその前に消えるけど」 飽いたように女が欠伸をした。
「でもあんた達は、この辺りには詳しくなさそうだし、うまく逃げられればいいけどねぇ」

女の言葉が、半ば落ち着きを取り戻しかけていた男B を、再度慌てさせた。
確かに、パトカーが界隈をウロウロし始める前に、
女の言うとおり、この場を立ち去らなければならない。

男B は急いで他の2人に合図してタカギを担ぎ出した。
巨体の男の体重は、複数の男の力でも支えるのが難しかったが、
最後には半ば引きずるような形で、どうにか体勢を整えると、
できるだけ足早に空き地の入り口に向かった。

「……重そうだね」 と、その様子を見ていた女が言う。
「タカギさん、捨ててけば? ジャマでしょ」

「いや、さすがにそういうわけには」

女の目は半ば本気を帯びている分、怖い。
仕方のないことだが、タカギに関しての女の印象は、明らかに好意的なものではないようだ。
置いていきたいのは山々ですが、と付け足しそうになり、無理やり言葉を飲み込む。
歩みながら、男B は女を振り返った。

「しかし、結局、大事になってしまいましたね。こんな予定じゃなかったのに」

「散々だな」 他人事のように女は言った。

「散々です」

男B は意味ありげな視線を女に向ける。それに気づいた女は、少しムッとしたようだ。

「何さ、あたしのせいだとでも?」

「いえ、それは……」

少なからず、原因はあると思うんだが。
言葉を濁しながら男B は口には出さずに呟いた。

ふいに、何となくこの場を立ち去りがたい、という奇妙な感情が男B の胸中に湧き上がり、
その思いは、男B 自身をも少しばかり戸惑わせた。
もう一度、振り返って女を見る。

先程まで空に浮かんでいた月は、いつの間にか現れた雲の陰に隠れ、
女のほっそりとした身体を照らすのは、街灯のぼんやりとした光のみだった。
白い顔に、半ば乾きかけている血の跡ときつい視線の印象が相まって、
ひどく獰猛な、それでいて冷酷なまでに頭の良いサバンナの獣を思わせる。

怖い物見たさ、という気持ちが、今の男B の心情に一番近かったかもしれない。
何となく目が離せない。

しかし、男C が焦れったそうに、おい、と男B を促し、さらに

「さっさと行きな。その葬式帰りのような格好は目立つんだよ。
長居されると、こっちが迷惑だ」

叱るような、突き放すような女の口振りに背を押され、ようやく男B は空き地を後にした。


幾つかの路地を、できるだけ急ぎ足ですり抜ける男達の姿は、
もしも目にする者がいれば、かなり異様な光景に見えたことだろう。
だが幸運なことに、この辺りの住人はさほど物見高くはないいようで、
どんよりとした夜の気配の中、男達と出くわす人間は1人もいなかった。
もっとも、建ち並ぶ家々の閉ざされた窓や扉の陰から、
ひっそりと通りを窺っている視線はあるかもしれないが、男B にはどうでもよかった。

このまま裏道を行けば、車が待機している場所まで無事にたどり着けるだろう。
タカギという荷物を打ち捨てていくことができれば、もっと時間は短縮されるだろうが、
先程女に答えたように、そういうわけにもいかない。


とにかく変わった女だった。
肩にかかる巨体の重さを疎ましく思いながら、
男B は、背負っている男と、あの女との対峙シーンを思い出していた。

途中から事の成り行きがおかしな方向へ首を向けてしまったとはいえ、
(それは全てタカギのせいだ、と男B は信じて疑わないが、
男B の気が抜けたコークのような言葉の応酬にも原因があることには気づいていない)
なかなか面白い出会いではあった。

風のように動く女。
単なる護身術以上の腕前を持っていた。それが非常に興味深い。
激昂している時は、恐らく手をつけられないだろうが (実際、そうだったし)、
落ち着いて相対している分には、さほど面倒な人間でもないように思える。

そういえば。
男B は、すっかり疎遠になっていた当初の目的を思い出した。
結局、女の名前は判らずじまいだったな。

まあいいさ。
成功したとはお世辞にも言えないが、組織のトップは自分には甘いことを男B は知っている。
最後には大目に見てもらえるだろう。

そんな甘い憶測に思いを馳せつつ、ただ、仕事とは離れたところで、
女の正体を知ることができなかった、それを残念に思っている自分に気づき、
男B は少しばかりうろたえた……。


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