「それにしても、本当に誰が撃ったんですかね」
落ち着かなげな視線を周囲に走らせる男B。
「もしかしてお嬢さん、ボディガードとか、いるんじゃないですか?」
「そんなモノを雇う財政的余裕は、全くないぞ」
「そういうことは胸張って答えなくてもいいんですよ。
まあ、お嬢さんならガードしてもらう必要もないでしょうが……あ」
男B は女の頭に目をやり、顔をしかめた。
「それより、お嬢さんの方は大丈夫なんですか? なんかイタそうですよ、その頭」
噴水の縁にぶつけた拍子に傷を負ったようで、女の頬を幾筋かの血が伝っている。
お嬢さんって言うな、と男を睨むと、女は無造作にこめかみに手をやり、
顔をしかめながら傷の程度を確かめた。
「問題ないだろう」 女は事も無げに言った。
「ちょっと切れてるだけだから、こんなん、すぐ直る」
「すみません。怪我させるつもりは最初からなかったのですが、成り行き上……。
迂闊なタカギに代わってお詫びを」
「最初から、あんなのを連れてこなけりゃ良かったんだ」
「そうすれば、あたしももう少し穏便に対応できたのに。そうだろ?」
そうですね、とも、そうでしょうか、とも言えず、やはり男B は、はあ、と生返事をする。
「それ、跡が残るんじゃありませんか?」
「どれ」
「それです。その傷」
男B の言葉に、今度は女が呆れたような目を向けた。
「そんなこと、気にするの?」
「はあ、やっぱり女性だし、顔に傷はちょっと……。それに私は血が苦手なんで。
子供の頃から、怪我しそうな危ない遊びはしたことがないんですよ」
「……」
外見や行動にそぐわない暢気さや、ある意味、育ちの良さすら感じさせるような男の言葉に、
女は完全に毒気を抜かれたようだった。
拍子抜けした、と言った方がいいかもしれない。
「……あんたって……いや、あんた達って、よく判らない連中だな。
脳細胞がネズミ並みの凶暴男がいるかと思えば、あんたはフェミニストの坊ちゃんで……」
女は男C、D をちらりと見た。
「後の2人は仕事放棄のナマケモノときてる」
ナマケモノ扱いされた2人は、肩をすくめてみせただけで、何も言わない。
「とりわけ仲間意識が強いわけでもなさそうだし。
この手のことに、慣れているのか、いないのか。本業は別のところにあるのか。至極不可解だ。
街のど真ん中で銃を使おうとする、その浅墓さもそうだけど、
消音器もつけてない不用意さにも呆れるね。笑っちゃうよ、大笑い」
はあ、と、相変わらずの男の返事。
それ以外に返す言葉がないのだ。全部当たっている。
「次回からは、人選にも気を配ります」
「次回はあたしと関係ないところで勝手にやってください」 女は剣呑な視線を向けた。
「ホントは誰に頼まれて尾行したか、全員殴り倒してでも聞き出してやろうと思ってたけど、
バカバカしくなったから、もういいや。あんた達、どう見ても大した組織じゃなさそうだし」
「いや、一応それなりに知名度はあるんですよ、我々は」
「そういう台詞は、服のセンスを直してから言いなさい」
「これは我々の個人的趣味ではありません」 若干、男B はムキになる。
「念のため言っておきますが、この衣装は、何と言いますか、トップの意向でして。
どこからか入手した 『大災厄』 前のムービー・フィルムが原因なんですよ。
それに出ていたアクター達がこういう格好をしているのだそうです。
それに感化されたのでしょうね。何でも、ニンキョーとか何とかいうジャンルの……」
「どうでもよろしい」
男B の長々とした説明を、女はハサミで切るように打ち切った。
明らかに興味がなさそうだ。
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