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蝶になった夢を見るのは私か それとも 蝶の夢の中にいるのが私なのか 夢はうつつ うつつは夢


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昨日、ようやく PURPLE HAZE の ACT 4 が完了しました。

この章に関しては、書いた本人の目から見ても
ツッコミどころ満載だなあ……と反省しています。

そもそも、当初 ACT 4 で書こうと思っていた内容が
書いてる途中で少しずつ変わってきてしまって、正直しんどかった。

登場人物が予定通りの動きをしてくれない、というのが、一番の理由。
那音と J の会話があんなに長くなる予定ではなかったし、
会話の内容も、あんなにツッコんだものになるハズではありませんでした。
途中でアリヲがいなくなるのも予定外。

どっちにしても、こちらのサジ加減ではあるのですが、
途中で軌道修正するには、話が進みすぎている感もあり……。
結局、そのまま突っ走ってしまいました。


次の反省点。

やっぱり、ワタシ、会話を書くのがヘタです。
ACT 4 は会話が多かったから、つくづく自覚しました。

会話を文章にするときに、
どうしても現実で話される言葉の流れを意識してしまうところがあり、
話し言葉をそのまま文章にしたら、絶対おかしくなる、と判っていながらも
現実くささを出したいあまりに、かえって不自然な言葉遣いにしてしまいます。

やはり、小説の中で書かれる 「話し言葉」 は、
現実とは離して考えないと。
判っちゃいるんだけど。


はい、次。
どんどん行きます。

ACT 4 では、医学とか技術とか、ワタシには全く縁がない内容に触れてますが、
そのための資料を事前に集めたものの、集め方が全然足りなかったこと。
想像だけでは片付かない、ある程度現実的な流れを押さえて書かなくてはならなかったので
これも、正直ごっつしんどかった。
いや、一番しんどかった。

とりあえず、とにかく話を先に進めたかったので
結果としては、すんごく軽く触れる程度になってしまいました。
詳しく書こうと思っても、こういう系の文章は今まで書いたことがなかったので
どのぐらい掘り下げればいいものか判らず、中途半端だと自分でも思います。

その方面の専門知識のある方。
子供の妄想のような内容ですが、ご容赦ください。

以前、ファンタジーよりも現代に近い世界の方が書きやすい、などと
生意気なことをブログに書いたことがありますが、
人物描写や心情表現はともかく、技術面になると手が出ない、ということを
この ACT 4 で図らずも思い知ったワケでございます。

でもこの先、
もっと小説世界のテクノロジーに触れなくてはならない局面が出てくる予定なので
今から思案中……。


それはともかく。

ACT 5 の開始は来週後半、あるいは再来週くらいからになる予定です。
ACT 4 がワタシとしては予想外の展開になったため、
次の章のプロットを軌道修正しなくてはいけないし、
家を空ける予定がポツポツとあり、毎日連載というのは難しいので。

しばらく小説更新はお休みにして、当分、日記の方のみ書くことになると思います。


……ああ、本当にどうなるんだろう、ACT 5。
自分の書いたものを人の目にさらすのって、ほんとコワイわ。

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「ほんの少しの事実があるっていうだけで、
どうやったら、そんなふうに無理やり物事を結び付けられるのかね。
その想像力は、ある意味ひとつの才能かもしれないな。スゴイですねぇ」

揶揄とも嘲りともつかない(恐らくは後者であろうが)、
そんな J の言い様に那音は少しムッとした表情になり、
その顔つきは、ただでさえ童顔な那音を、さらに子供じみて見せた。

「また、そうやってバカにするんだな、フウノ。
俺、結構真剣に考えたんだぜ、今の仮説」

「本気で言ってんの」

「本気も本気」

答えながら那音は新しい煙草を取り出そうとしたが、
箱の中身がカラであることに気づき、それを握りつぶして J の方へ指を1本立てた。
こっちも残り少ないんだ、と顔をしかめながらも、J は自分の煙草を差し出してやる。
那音が2本抜いたのを見逃さず、内心ではこの野郎、と思った J だが、
あまりに悪びれない相手の表情に呆れたのか、黙っている。

「これは俺のカンなんだが」 那音が続ける。
「麻与香は今、絶対に何かをやらかそうとしている。
それが何なのかが分からない。俺はそれが知りたいんだよ。
だから、フウノに協力を申し出たってワケさ。
まあ俺は俺で、いろいろ探っているんだけどよ」

「本人に直接聞けば?」 と J。
「何たって、あんたはあの女の 『伯父さま』 なんだから」

「あのな、もし麻与香が本当に何かを企んでるとして、
あいつが俺にそれを素直に打ち明けると思うか?」

「思いません」 J は即答する。

「その通り」

「だからって、何も裏でコソコソ嗅ぎ回らなくてもいいものを。
第一、あたしが調べてるのは笥村聖の消息であって、
麻与香の腹黒い野望のことなんか、どうでもいいの」

「でも、その2つが繋がってるかもしれない、ってのは、今話した通りだろ」

「そうだっけ? 話が長すぎて、どんな内容だったか覚えてないよ」

「じゃあ、もっかい最初から話すか?」

「……それだけは、やめてください」

あながち冗談ともいえない口調の那音の提案を、ウンザリとした面持ちで J は拒絶する。

ハコムラ本社に入ったのはおよそ正午頃。
そして今、窓から差すどんよりとした光は少し陰りを帯びて見え、
ある程度の時間が経過したことを J に告げている。

その間ずっと那音が語った話から、目の前の男の意図を J は大よそ理解した。
しかし、予想を上回る量の情報を得た感は確かにあるものの、
その信憑性については、聞き終った今でも疑いの域を出ない。

この男は、どこかしら自分の考え(あるいは憶測)に固執しているようで、
別の見方をすると、J にミス・リーディングを誘っているようにも思える。
とりあえず表面的には、いかにもありそうな話を並べて取り繕っているが、
真意の程はどうなのだろうか。

それよりも J にとって面白くないのは、
協力すると言いながらも、
肝心のことは J に探らせようと煽っているフシが那音の中にありありと見える点だった。

結局、麻与香と同様に、
この男も自分を良いように振り回そう、という腹なのかもしれない。
そう考えた J は多少の馬鹿馬鹿しさも覚えながら、
とりあえず今日のところはこれで退散すべきだろう、と考えた。
那音はともかく、聞き手としての J の容量がすでにフルになっている。

「あんたの説を丸々鵜呑みにしたわけじゃないけど」 J は煙草の箱をポケットにしまう。
「狭間とやらには明日会う予定になってるから、
今日あんたから聞いたことも、一応ツッコんでみるよ」

「ぜひそうしてくれ。ヤツをつついたら、絶対何か出てくるって」

「どうだか」 アヤシイものだ、と思いながら J はなおざりに返事を返した。

「あ、そうそう」 那音が釘を刺す。
「俺から聞いた、って言うなよ。こっちがビミョーな立場になっちまうから。
一応、俺、ハコムラの社員だしな。内輪ネタを外部にバラまく男って思われたくねえし」

そういう男のクセに、何を良い子ぶろうとしているのか。
呆れた J だが、もはや嫌味を言うのも面倒くさい。

「それから、何か判ったら、ちゃんと俺に知らせてくれよ。
こっちはかなり情報提供したんだからな。ほれ、俺のフォン・ナンバー」

那音が机の上に置いてあった新品の小さなメモ用紙を1枚引きちぎり、
備え付けのペンで数字を書き殴って J に渡す。

「……きったねー字」 受け取った J が紙面に目を走らせる。
「30越えてるオッサンの書く字じゃないな」

「オッサン言うな」 那音がムッとする。「まだ俺は37歳なんだから」

「オッサンじゃん」 と、小馬鹿にしたような表情の J。
「じゃ、そういうことで」

それまでの会話をその一言で断ち切るように言い捨てると、
J はソファから立ち上がって那音に背を向けた。

「待った待った。俺の AZ がないと出らんないから、俺も一緒に出るわ」
慌てて那音も立ち上がる。
「あ、なんだったら、また車で送ってやろうか?」

那音の親切めかした提案に、J は鬼のような形相で、絶対イヤ、と即答した。



-ACT 4- END


→ ACT 5-1 へ
「まあ、フウノと麻与香の仲の良さはともかく」
横道に反れた話を戻そうと、那音が言葉を続ける。
ヘンな言い方をするな、と言わんばかりに J が那音を睨んだが、
那音は気にしていない。

「アルヴァニーと麻与香の付き合いは1年間っていう期間限定だった。
麻与香が入学した次の年に、アルヴァニーはカレッジの研究室を出て、
学生時代から誘いが掛かっていたエウロペの研究機関に行っちまったからな」

「そして、さらに翌年には」 J が言葉を引き継いだ。
「麻与香が20も年の離れた笥村聖と結婚。
それと時期を同じくして、
ハコムラ・コンツェルン系列の C&S では、狭間がナゾの研究を始めた……と」

「予算増加もな」

「うーん……」

J は頭を抱える。
那音の口から語られる情報で、J の頭の中はすでに飽和状態である。
それらを次々と数珠繋ぎにしていく作業は
やはり J にとっては厄介なことこの上ない。
新たな事実、あるいは憶測であったり、単なるウワサであることもあるが、
それらを聞かされて、J の脳内にインプットされた途端、
それよりも先に聞いた情報が頭の外に押し出されてどこかへ行ってしまう。

「あ、それからな」

それなのに、那音の話はまだ続くようだ。
自分が知ってる全てを J に伝えよう、という使命感でもあるのか、
まだまだ話したりないような表情を見せている。

この男の話し方が、そもそも細切れで要領を得ないし、しかも余談が多いから
聞いている自分の方も話がまとまらないのだ、などと
那音のせいにもしてみたが、とりあえず J は那音の話の続きを待った。

「結婚当初から、麻与香は総合医療開発施設である C&S に興味を持っていた。
自分の専門分野とカブる部分があったからかもしれないが、
とにかく何度も C&S を訪れている。
聖の査察に同行したり、時にはプライベートで。……で、俺が思うには」

那音が声のトーンを一段下げ、それに対して J が皮肉をこめて釘をさした。

「トリガイ専務、また憶測ですか。もう間に合ってますケド」

「そういうなよ、フウノ。
事実と事実の間にある見えない部分は、想像して埋めてくしかないんだから」

口を尖らせて、それでも那音が話し続けたところによると、
当時から麻与香は狭間と接触する機会が何度もあり、
アルヴァニーともそうだったように、研究者同士、大層気が合ってるように見えたという。

狭間が研究を始めてからは、麻与香はさらに頻繁に C&S を訪れるようになった。
やがて、狭間を聖の秘書に、という話が持ち上がると、麻与香は聖に進言して、
エウロペの研究施設からアルヴァニーを呼び寄せ、C&S へと移籍させた。
そして、今に至る、というわけである。

「狭間が大層な金をかけて手がけている研究っていうのは」
妙に真剣な表情を浮かべて、那音は J を見た。どうやら話は大詰めらしい。
「実は麻与香が持ちかけたんじゃないか、と俺は睨んでんだよな」

「……」

J は何も答えない。新しい煙草を取り出して火をつけている。
その沈黙を賛成の意と受け取ったかどうかはともかく、那音は話し続けた。

「麻与香がアルヴァニーを呼んだのは、
その研究がカレッジ時代での2人の共同テーマに関わる内容だったからじゃないか、と」

「……」

「あの頃、麻与香はよく言ってたぜ。
もしこの研究が成功すれば、
再生医療の分野に留まらない、大きな風が吹くことになるだろう、って。
そんなどえらいことを考えていたんだとしたら、きっと麻与香は諦めない。
あいつの性格を考えれば、
ハコムラの金と施設を使って実験研究を続けようと思ってもおかしくないだろう。
だから、狭間を使って……って、どうよ、俺の説」

「……たいした憶測ですねぇ」

黙って那音の話を聞いていた J だが、
まるで誉められるのを待っている子供のような相手の顔を見ながら、
呆れた表情を隠そうともせずに、ただ、ゆっくりと煙を吐いた。



→ ACT 4-29(完) へ
「何で麻与香が?」
不審と若干の好奇がない交ぜになった心境で、J は尋ねた。
「そのアルヴァニーって女と、知り合いか何かだったの?」

「知り合いも知り合い、なんとカレッジの同窓生で、同じ研究室の出身だ」

「……セントラル・カレッジの?」

「そう」 那音は大きく頷き、J の顔を見て思い出したように付け加えた。
「ああ、そういえば、フウノも同じカレッジだったよな。
アルヴァニーのことは……まあ、知ってるわけないか。学部が違うし」

J は軽く顔をしかめる。
カレッジの話題は、大抵の場合において
あまり愉快でない記憶を J に思い出させるのだ。
しかし、そんな J に追い討ちをかけるように那音が尋ねてくる。

「アルヴァニーと麻与香は理数系だが、フウノは人文系だったもんな。
確か、比較文化人類学だっけ?」 那音は J の顔を見直した。
「麻与香もそうだけど、あんたも相当優秀な頭の出来だったみたいだな。
卒業間際まで担当教官が大学に残るよう勧めてたんだって?」

「何でそんな細かいことまで知ってるんだ」 J は不機嫌そうだ。

「麻与香から散々聞かされたんだよ、あんたのことを。
それに、俺、わりと記憶力はいい方なんでね」

「……」

また、麻与香か。
更に面白くなさげな表情を浮かべて、J は乱暴に煙草をもみ消す。

殊更に経歴を隠すつもりなどない J ではあるが、
嫌いなタイプの人間が、必要以上に昔の自分を知っているのは気に入らなかった。
特に自分が忘れたいと思っている記憶、つまり、麻与香との関わりであるが、
それを那音が訳知り顔で話すのを見ていると、それだけで J は気が滅入るのである。

「あたしの話は今は関係ありまセン」 少し強い口調で J が言う。
「アルヴァニーとやらの話を聞かせなさい」

「あー、判った判った」 那音は両手を挙げて J を制した。
「じゃあ、手短に話そう。
麻与香は入学早々、一般教養課程をすっ飛ばして専門の研究室に入った。
そこで院生のアルヴァニーと出会った、ってわけさ。
2人は結構気が合っていたみたいで、
互いの研究内容についてしょっちゅう意見を交し合っていたらしい」

アルヴァニーは当時24歳。麻与香は17歳。
7歳の年の差を超えて、対等に議論できる関係にあった2人は、
ある時期から共同でひとつのテーマについて考究するようになったという。

「それが何なのかまでは、麻与香は詳しく教えてくれなかったがね」 と、那音。
「まあ、俺なんかが聞いてもさっぱり判らないだろうし。
何でも、再生医療に関する研究だとかなんとか言ってたな」

「再生医療?」

「そう」 那音が頷く。
「最近よく聞くじゃん。細胞を取り出して、培養して新たに臓器を作って
悪くなった臓器と取っ替えるってやつ。
元々このテーマはアルヴァニーが研究していた分野なんだよ。
彼女の専門が細胞工学だから」

「麻与香は違うの?」

「あいつの専門は脳神経学。どっちもバイオテクノロジーの分野だけどな」

「……あいつ、カレッジでそんなお勉強してたのか」

「フウノ、知らなかったのかよ。あんなに麻与香と仲良しサンだったのに」

「仲良くないっ」

早口で否定した J が軽く那音を睨む。

カレッジ時代の麻与香との関係は、
自分にとっては全くもって不本意なものなのだ、と声を大にして言いたい J である。

当時は麻与香が自分勝手に J に付き纏っていただけであり、
J 自身は、麻与香に関する一切の情報、たとえば、
どこのハイ・スクールからスキップしてきたのか、
どんな家族構成なのか、
カレッジで何を学んでいるのか、
休日はどうやって過ごしているのか、
好きな食べ物は何なのか、
好きな色は何なのか、
どんな子供時代を送ってきたのか……
等々については、麻与香から一方的に教えられる以外のことを
自発的に知りたいと思ったことは一度もないのだから。


→ ACT 4-28 へ

「それだけじゃないぜ、フウノ」 考え込む J に、那音がちらりと視線を向ける。
「8年前にあったコト……フウノ、忘れちまったのかよ?
ニホン中を騒がせた一大イベントがあっただろうが」

「……!」 J はハッと顔を上げた。
「麻与香と聖の結婚か……!」

J がまだカレッジで鬱々とした日々を過ごしていた頃。
一人の女子大学生がニホン随一の資産家と結婚した。
それが、今から8年前のこと。

そして、同じ時期に狭間は怪しげな研究に手を付け始め、
C&S の予算枠も大幅に更新した……。

同じタイミングで、色々なことが重なっている。
だからと言って、これらの事実を互いに結び付ける糸は、まだ見当たらない。

だが。
J は目の前でだらしない笑みを浮かべている男を睨んだ。
恐らく、那音は手の内にそれを隠し持っている。

「……那音」 探るような J の声が響く。

「ん?」

「まだ何か言ってないことが、あるんじゃないの?」

「まあな。聞きたい? だったら教えてやってもいいぜ」

「……」

この期に及んで、この男は。
相変わらずの含むような那音の話し方に、J の機嫌が再び下降気味になる。

「那音」 先ほどよりも冷たい声で J は男の名を呼んだ。
「お前ね、情報を握ってることで優位に立ってると思ったら大間違いだよ。
協力したいって言ってきたのは、お前の方だけど、
こっちは、わざわざそれに乗っかる必要なんてないんだからな」

乗った方が有利なのかもしれないが、と心の中だけで呟き、
J は言葉を続けた。

「あんたと駆け引きめいた話をするつもりは、こっちにはないんだよ。
とっとと話せばいいものを、
わざわざ時間をかけて、小出し小出しに話を出し惜しみする、その態度がイヤだ。
喋り方もなんか鼻についてイヤだ。要するに、全部イヤだ」

刺々しい J の言葉に、那音が少しだけ慌てた素振りを見せる。

「あー、悪りい、悪りい。俺のクセなんだよ、こういう話し方。
麻与香にも、何とかしろって言われてんだけどよ、それがなかなか」

しかし、J の反応は素っ気ない。

「判ってるんだったら、肝心な要点だけ、スッキリハッキリ手短に言いな」

「判った、判った。えーっと、何だっけ」
少しばかり焦り気味の口調で、那音が何事かを思い出そうとする。
「ああ、そうそう。C&S のアルヴァニー・渡邊のことなんだけどな」

「……ああ、狭間が抜けた後に所長に納まったっていう女ね」

「そうそう。そのアルヴァニーなんだが、
C&S に来る前は、他所のラボラトリーで優秀な成果を挙げていた科学者だ」

「それを聖が引き抜いたんだろう? それはさっき聞いたよ」

「いや、実はな、彼女を引き抜いたのは聖じゃなくて、本当は麻与香の方なんだ」

「麻与香が?」

驚きと、再び話が複雑になりそうな予感で、
J の眉間にその日何度めかの縦ジワが入る。


→ ACT 4-27 へ

「たとえ、狭間が何か仕掛けた可能性が0%ではないにしても、
裏付ける根拠がなければ、ただの言いがかりだよ、トリガイ専務。
あんたの思い込みだけでムダに動かされるのは、あたしはゴメンです」

「慎重だなー、フウノは」

「……」

お前まで言うか。
J は少しだけムッとした。
慎重過ぎる性分には J 自身も自覚があるとはいえ、
自分の苦手な人間達にこぞって指摘されると、さすがに面白くない。

「とにかく、C&S や狭間のことは、一応頭ン中に留めておくから……」

そう言って J は空想に近い那音の言い分を打ち切ろうとしたが、
それを無視して那音がふいに言葉を割り込ませる。

「狭間の研究には、きっと麻与香も絡んでるぜ」

「は?」 那音の口から出た思いがけない名前は、一瞬 J の意表を突いた。
「麻与香? 何で麻与香がここに出てくるんだ?」

J の問いには答えず、那音はソファの背もたれに身体を戻した。
J の背後の壁に目をやりながらも、
その焦点は壁を越えた何かに向けられているような、遠い視線を投げている。

「C&S への金回りが良くなったのは、ここ数年のことなんだよな……」
那音が独り言のように呟く。
「予算の時期になると、必ず前年の倍以上に額が跳ね上がっている。
で、それが始まったのは……」

そう言いかけた那音は、大理石の灰皿に煙草の火を押し付けて消すと、
立ち上がって壁際の書類棚から、1冊の分厚いファイルを取り出した。
表紙には 『社外秘』 と判が押され、中にはかなりの枚数の紙が綴られている。
相当重いらしく、那音は両手でファイルを持ち直すとソファまで戻り、
乱暴な音を立てて J の目の前のテーブルに置いた。

ファイルとテーブルがぶつかる大きな音に思わず J は眉をひそめたが、
忙しなくファイルのページをめくる那音の動作を、黙って見ていた。

「しかし、世の中ではペーパーレス化が進んでるってのに、
何でこう、紙なんか使いたがるのかね、ウチのお偉いさん方は」

「年寄りが多いからだろ」 詰まらなそうに Jが答える。

「だからって、ムダなんだよ。どうせ全部に目を通してるヤツなんていないのによ。
理解に苦しむぜ、まったく」

目当てのページがなかなか見つからないことに文句をいいながら、
辛抱強く那音はページを繰り、辛抱強く J は待った。

「ああ、あった、あった。事業所別の推移財務報告書」

やがて、那音が目当ての書類を探し出して、ファイルを J の方へ差し向けた。

「これを見れば、ここ20年間の C&S の予算が一目で判る。
まあ、ちょっと見てくれよ。8年前のところ」

そう言いながら那音が指差した紙面に J は目を向けた。
幾つかのグラフがプリントアウトされている中に、
『当初予算比較推移表』 とタイトルが付けられた折れ線グラフがある。

グラフは20年前から始まり、
那音の言葉通りに、8年前から数値が徐々に伸びている。
それは不自然なくらい急激な右上がり線で、
最新と最古のデータを比較すると、金額にしておよそ10倍以上の差があった。

「ふーん……」 J はグラフを見ながら言った。
「すごいな。ウナギ登りってのは、こういうことを言うのかね。
しかも、シャレにならない金額じゃん。8年前って何かあったの?」

「特にないね」 那音はにやりと笑った。
「狭間の研究が始まったのが、今から8年前……ってことぐらいかな」

「……例のナゾの研究ってヤツか」

J は呟いて、しばし沈黙の中で思案した。




→ ACT 4-26 へ

プロフィール
HN:
J. MOON
性別:
女性
自己紹介:
本を読んだり、文を書いたり、写真を撮ったり、絵を描いたり、音楽を聴いたり…。いろいろなことをやってみたい今日この頃。
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