「まあ、フウノと麻与香の仲の良さはともかく」
横道に反れた話を戻そうと、那音が言葉を続ける。
ヘンな言い方をするな、と言わんばかりに J が那音を睨んだが、
那音は気にしていない。
「アルヴァニーと麻与香の付き合いは1年間っていう期間限定だった。
麻与香が入学した次の年に、アルヴァニーはカレッジの研究室を出て、
学生時代から誘いが掛かっていたエウロペの研究機関に行っちまったからな」
「そして、さらに翌年には」 J が言葉を引き継いだ。
「麻与香が20も年の離れた笥村聖と結婚。
それと時期を同じくして、
ハコムラ・コンツェルン系列の C&S では、狭間がナゾの研究を始めた……と」
「予算増加もな」
「うーん……」
J は頭を抱える。
那音の口から語られる情報で、J の頭の中はすでに飽和状態である。
それらを次々と数珠繋ぎにしていく作業は
やはり J にとっては厄介なことこの上ない。
新たな事実、あるいは憶測であったり、単なるウワサであることもあるが、
それらを聞かされて、J の脳内にインプットされた途端、
それよりも先に聞いた情報が頭の外に押し出されてどこかへ行ってしまう。
「あ、それからな」
それなのに、那音の話はまだ続くようだ。
自分が知ってる全てを J に伝えよう、という使命感でもあるのか、
まだまだ話したりないような表情を見せている。
この男の話し方が、そもそも細切れで要領を得ないし、しかも余談が多いから
聞いている自分の方も話がまとまらないのだ、などと
那音のせいにもしてみたが、とりあえず J は那音の話の続きを待った。
「結婚当初から、麻与香は総合医療開発施設である C&S に興味を持っていた。
自分の専門分野とカブる部分があったからかもしれないが、
とにかく何度も C&S を訪れている。
聖の査察に同行したり、時にはプライベートで。……で、俺が思うには」
那音が声のトーンを一段下げ、それに対して J が皮肉をこめて釘をさした。
「トリガイ専務、また憶測ですか。もう間に合ってますケド」
「そういうなよ、フウノ。
事実と事実の間にある見えない部分は、想像して埋めてくしかないんだから」
口を尖らせて、それでも那音が話し続けたところによると、
当時から麻与香は狭間と接触する機会が何度もあり、
アルヴァニーともそうだったように、研究者同士、大層気が合ってるように見えたという。
狭間が研究を始めてからは、麻与香はさらに頻繁に C&S を訪れるようになった。
やがて、狭間を聖の秘書に、という話が持ち上がると、麻与香は聖に進言して、
エウロペの研究施設からアルヴァニーを呼び寄せ、C&S へと移籍させた。
そして、今に至る、というわけである。
「狭間が大層な金をかけて手がけている研究っていうのは」
妙に真剣な表情を浮かべて、那音は J を見た。どうやら話は大詰めらしい。
「実は麻与香が持ちかけたんじゃないか、と俺は睨んでんだよな」
「……」
J は何も答えない。新しい煙草を取り出して火をつけている。
その沈黙を賛成の意と受け取ったかどうかはともかく、那音は話し続けた。
「麻与香がアルヴァニーを呼んだのは、
その研究がカレッジ時代での2人の共同テーマに関わる内容だったからじゃないか、と」
「……」
「あの頃、麻与香はよく言ってたぜ。
もしこの研究が成功すれば、
再生医療の分野に留まらない、大きな風が吹くことになるだろう、って。
そんなどえらいことを考えていたんだとしたら、きっと麻与香は諦めない。
あいつの性格を考えれば、
ハコムラの金と施設を使って実験研究を続けようと思ってもおかしくないだろう。
だから、狭間を使って……って、どうよ、俺の説」
「……たいした憶測ですねぇ」
黙って那音の話を聞いていた J だが、
まるで誉められるのを待っている子供のような相手の顔を見ながら、
呆れた表情を隠そうともせずに、ただ、ゆっくりと煙を吐いた。
→ ACT 4-29(完) へ
横道に反れた話を戻そうと、那音が言葉を続ける。
ヘンな言い方をするな、と言わんばかりに J が那音を睨んだが、
那音は気にしていない。
「アルヴァニーと麻与香の付き合いは1年間っていう期間限定だった。
麻与香が入学した次の年に、アルヴァニーはカレッジの研究室を出て、
学生時代から誘いが掛かっていたエウロペの研究機関に行っちまったからな」
「そして、さらに翌年には」 J が言葉を引き継いだ。
「麻与香が20も年の離れた笥村聖と結婚。
それと時期を同じくして、
ハコムラ・コンツェルン系列の C&S では、狭間がナゾの研究を始めた……と」
「予算増加もな」
「うーん……」
J は頭を抱える。
那音の口から語られる情報で、J の頭の中はすでに飽和状態である。
それらを次々と数珠繋ぎにしていく作業は
やはり J にとっては厄介なことこの上ない。
新たな事実、あるいは憶測であったり、単なるウワサであることもあるが、
それらを聞かされて、J の脳内にインプットされた途端、
それよりも先に聞いた情報が頭の外に押し出されてどこかへ行ってしまう。
「あ、それからな」
それなのに、那音の話はまだ続くようだ。
自分が知ってる全てを J に伝えよう、という使命感でもあるのか、
まだまだ話したりないような表情を見せている。
この男の話し方が、そもそも細切れで要領を得ないし、しかも余談が多いから
聞いている自分の方も話がまとまらないのだ、などと
那音のせいにもしてみたが、とりあえず J は那音の話の続きを待った。
「結婚当初から、麻与香は総合医療開発施設である C&S に興味を持っていた。
自分の専門分野とカブる部分があったからかもしれないが、
とにかく何度も C&S を訪れている。
聖の査察に同行したり、時にはプライベートで。……で、俺が思うには」
那音が声のトーンを一段下げ、それに対して J が皮肉をこめて釘をさした。
「トリガイ専務、また憶測ですか。もう間に合ってますケド」
「そういうなよ、フウノ。
事実と事実の間にある見えない部分は、想像して埋めてくしかないんだから」
口を尖らせて、それでも那音が話し続けたところによると、
当時から麻与香は狭間と接触する機会が何度もあり、
アルヴァニーともそうだったように、研究者同士、大層気が合ってるように見えたという。
狭間が研究を始めてからは、麻与香はさらに頻繁に C&S を訪れるようになった。
やがて、狭間を聖の秘書に、という話が持ち上がると、麻与香は聖に進言して、
エウロペの研究施設からアルヴァニーを呼び寄せ、C&S へと移籍させた。
そして、今に至る、というわけである。
「狭間が大層な金をかけて手がけている研究っていうのは」
妙に真剣な表情を浮かべて、那音は J を見た。どうやら話は大詰めらしい。
「実は麻与香が持ちかけたんじゃないか、と俺は睨んでんだよな」
「……」
J は何も答えない。新しい煙草を取り出して火をつけている。
その沈黙を賛成の意と受け取ったかどうかはともかく、那音は話し続けた。
「麻与香がアルヴァニーを呼んだのは、
その研究がカレッジ時代での2人の共同テーマに関わる内容だったからじゃないか、と」
「……」
「あの頃、麻与香はよく言ってたぜ。
もしこの研究が成功すれば、
再生医療の分野に留まらない、大きな風が吹くことになるだろう、って。
そんなどえらいことを考えていたんだとしたら、きっと麻与香は諦めない。
あいつの性格を考えれば、
ハコムラの金と施設を使って実験研究を続けようと思ってもおかしくないだろう。
だから、狭間を使って……って、どうよ、俺の説」
「……たいした憶測ですねぇ」
黙って那音の話を聞いていた J だが、
まるで誉められるのを待っている子供のような相手の顔を見ながら、
呆れた表情を隠そうともせずに、ただ、ゆっくりと煙を吐いた。
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J. MOON
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女性
自己紹介:
本を読んだり、文を書いたり、写真を撮ったり、絵を描いたり、音楽を聴いたり…。いろいろなことをやってみたい今日この頃。
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