このブログで紹介しているのは、昔から私が書き散らかしてきた創作小説の類。
今はまだ一作しか載っけてませんが
他にもいろいろあるので、順次掲載予定です。
今のところ、全部未完ですが。
でも、人に作品を見てもらったことがないので
「読まれる」ということに対して、ものすんごく抵抗があります……。
勢いだけで書いていたり、
表現が稚拙でまとまりがなかったり
言葉遣いが統一されてなかったり……。
はずかしーっ!
……と思ってたんですが。
文章を書くのは今も昔も変わらず好きなので
できれば、もっと巧く書けるようになりたい!……というのがホンネ。
そのためには、どこがどう悪いのかを客観的に判断してもらう必要があると思い、
公表することにしたのでした。
ああ、でもやっぱり、はずかしー。
……がんばろう。
初めてのブログです。
いままでmixiで日記を書いたりすることはありましたが
自分だけの「書く場」を持ってみたいなあ……と思うようになり
このブログを立ち上げました。
まったくの初心者なので
ブログの仕組みがどうなってるのかまったく分からず
それでも、以前簡単なHPを作ったりしていたこともあって、
最初は「HPみたいに自分で作ることができるんだろう」なんて
お手軽に考えていたんですが……。
cssってナニ?
スタイルシートってナニ?
……分からな過ぎです。
で、無料でブログの場を提供していただけるサイトもたくさんある、ということをやっと知り
「自分で作るよりもメンドーじゃなくて、こりゃいいや」ってんで
利用させていただくことにしました。
日々思ったことや、
書き散らかしている小説などを載せていこうと思っています。
今後、よろしくお付き合いくださいませ。
このブログのタイトルは
禅の説話に出てくる「日々是好日」という言葉からいただいたもの。
たとえどんなことが起ころうとも、
一日一日を好い日であると受け止めていく、というイミに私はとらえています。
(もっとも、もっと深い意味があるのでしょうが……)
で、この言葉に
中国の故事である「胡蝶の夢」の意味合いを加えてみました。
荘周という男が夢の中で蝶になり、自分が「荘周」という人間であることを忘れてしまった。
しかし、目が覚めてみると、自分はやはり荘周だった。
果たして
荘周は夢で蝶になったのか、それとも蝶の夢の中で荘周になったのか。
現実にいる私が物語を夢想しているのか
それとも、物語の中の私が現実の私を夢想しているのか。
そんな感じで文章を書いていきたいなあ。
……ということで、このタイトルをつけました。
タイトル下に入っている文章も、そのイメージでコメントしました。
忍者ブログにイメージぴったりのブログデザイン・テンプレートがあって感激!
Kaie さんという方からお借りしています。ありがとうございます。
さ、今日も書くことに夢想しよう。
実に久方ぶりに訪れた街は、道端に生えている草の一本一本までが、サフィラにとっては心地好かった。城の窓から嗅ぎとる空気とはまるで違う不思議な匂いが、街の中には漂っているような気さえした。
サフィラは上機嫌で馬を駆った。
ただ一つ気に入らない点といえば、サフィラが並足で通り過ぎる度に、道行く人々が、
「これはサフィラ様、この度はおめでとうございます」
「サフィラ様、御婚約おめでとうございます」
「この度は、本当におめでとうございます」
と、さも親しげに声を掛けては、その度にサフィラに不愉快な事実を思い出させることであった。
何がめでたいものかと大声でわめき散らすわけにもいかず、何より人々の純粋な祝福の言葉を聞き捨てることも出来ずに、サフィラは優雅に微笑んで感謝を表し、顔を強張らせながら街外れへと馬を急がせた。
ヴェサニールの善良な民人の数と同じほどの悪意のない祝福を受け、マティロウサの家に辿り着いた頃にはサフィラはすっかり精を使い果たし、杭に馬を繋ぐのもいい加減に古ぼけた扉を叩いた。
「まあ、サフィラ様」
窓から差す光の中で薬草を選り分けていたウィルヴァンナが、驚いたように椅子から立ち上がるとサフィラに駆け寄った。
「お久し振りですわ。もう随分長い間お顔を見ていないような気がします」
「実際長い間だったよ、ウィーラ。何ていったって、もう半月ぶりぐらいだからな」
「本当に」
答えながら、ウィルヴァンナは扉の向こうにもう一つの人影を探すように目をやったが、そこにサリナスがいないのを知ると、少しばかり表情を曇らせた。
「今日はお一人ですのね」
「ああ、うん、サリナスの所へは後で顔を出そうと思って。久し振りだから、まずマティロウサの顔に増えた皺の数を数えてやろうと思ってね」
「そうですの」
サフィラの冗談にお愛想程度の笑みを返し、一瞬大きく溜め息をつきそうになったウィルヴァンナは慌てて口元を押さえ、そして思い出したようにサフィラに笑顔を向けた。
「ああ、そういえば、サフィラ様、この度は……」
「『おめでとうございます』 なんて言う積もりだったら、頼むから止めてくれ。聞く気はないぞ」
ウィルヴァンナの言葉を急いで遮って、サフィラは言った。
「はっきり言って私はうんざりしている。もう一万回ほども聞かされた。いや、百万回だ。まったく、結婚のどこがめでたい? めでたくなんかあるか、そんなもの」
「相当お冠のご様子ですこと」
「そりゃもう、城中が結託して私の結婚を盛り立てようとしてるもんだから、こちらは苛々しっぱなしだ。父上は私の機嫌を取るか、さもなくば陳腐な文句で私を脅しにかかるし、母上は母上でいきなり態度が強くなって、あれこれ采配を奮っては、暇があれば花嫁の心得云々を講義しに毎晩部屋へと押し掛ける。はっきり言って、あの人は今は父上よりも怖いぞ。なにせ嫁ぐのが女の幸せ、と本気で思ってるような人だからな。女の一念は雨季の洪水よりも激しく強い。下手に逆らうとどうなるか。それに、忠義一筋の老いぼれ侍従や騒ぎが好きなお喋り侍女も加わって、ドレスの仕立てがどうだ、礼儀作法がどうだ、言葉遣いがどうだ、もうやいのやいの煩いったら! いっそ誰かと変わってやりたいよ」
「御苦労なさってるんですのね、サフィラ様」
一気にまくし立てたサフィラに向かって、同情するようにウィルヴァンナがやんわりと言った。
「苦労も何も……いや、愚痴を言ったって今更どうにもならん。それよりマティロウサはいる?」
「ええ、でも、今、丁度お客様が見えていて」
「客?」 驚いたようにサフィラは尋ねた。「客って、マティロウサに?」
「ええ。今、奥の部屋でお話しなさっておられますわ。何でも、かなり旧くからのお知り合いとか」
「ふーん。珍しいな、客なんて。どんな人?」
ウィルヴァンナが答えるよりも早く、奥の扉の向こうから魔女の嗄れた声がサフィラの耳を打った。
「魔白だね。お入り」
「客人がいるんじゃないのかい? 入っていいの?」
「おや、それでも 『遠慮』って言葉の意味を少しは覚えたらしいね」
「あいにく今はそんな憎まれを聞いたって動じるような心境じゃないのでね。『遠・慮』 なく入るから」
サフィラの皮肉めかした言葉に続いて重々しい悲鳴を上げて木の扉が開き、相変らずのすえた匂いが隙間から漂ってきてサフィラの鼻を突く。臘の溶ける音が静かに響いた。
→ 第二章・兆候 6 へ
老人は、マティロウサの久方ぶりの客人である。
まさしくこの魔女の知己に相応しく、幾星霜もの時を生き、この世で起こる全ての事をその穏やかな瞳で見据えてきたであろうような風貌である。
マティロウサに出されたアサリィ茶を啜りながら、老人は今、まるで美しい音楽でも聞いているような表情で目を閉じ、考え事をしている。
それをマティロウサが腹立たしげに、そして幾分不安げに睨んでいた。
「ふむ、じゃあないだろ? さっきから話をはぐらかしてばっかりじゃないか。いい加減、本題に入っとくれよ。ただでさえこっちは驚いてるんだからね。谷に籠って以来なんの音沙汰もなかったあんたが、今になって顔出すなんてさ。一体どういう訳があって……」
「谷にも飽きてな、というのは理由にならんか」
「ならないよ」
にべもなくマティロウサが否定する。
「はっきり言っとくれよ、シヴィ。何で今更あたしを訪ねてきたのさ」
「予想はついておるんじゃないのかね? え、マティロウサ。お前様だって感じておらん訳じゃなかろうが」
「何をさ」
老人は答えず黙り込む。
「シヴィ」 マティロウサは、もう一度声をかけた。
シヴィと呼ばれたその老人は、アサリィ茶を一啜りして、ようやく言葉を絞り出した。
「……時が経てば、期は満ちる。どうやら、そういうことじゃ」
今度はマティロウサが口を閉ざす番だった。老いた魔女の表情が少しずつ強張っていくのを見つめながら、シヴィはゆっくりと、そして一言一言はっきりと言った。
「わし等はずっとそれを知っていたじゃろう? マティロウサ。いずれこの時が来るのをな。いわゆる……伝説の具現を」
「……七と一つの水晶」
マティロウサの声が震える。普段の魔女からは考えられないことである。
シヴィが静かに頷いた時、マティロウサはほんの少し青褪めながらも、落ち着きを取り戻した
「『目覚め』 が、近い……と?」
「ううむ」
マティロウサは眉根に深い皺をよせ、半分目を閉じて何事かを思い悩んでいる様子で再び黙り込んだ。部屋の中を沈黙が支配する。
やがて魔女が口を開く。
「でも、あたしたちには手出しができない。あんただって分かってるんだろう」
「直接関わるわけにはいかん。じゃが、『騎士』 達の手助けをするぐらいは出来る。それに 『黒き歌人』 はもう既に目覚めておる」 シヴィは言葉を切った。「谷でな」
「一人だけが目覚めていても意味はないよ、シヴィ。他の 『騎士』 達が必要だよ」
「水晶が 『目覚め』 れば、『騎士』 達もそれに魅かれて世に現われよう。その逆もまた然り。『騎士』 達の気配があれば、水晶はそれを追う。あの古の詩のようにな」
「あの詩……」
マティロウサは心の中にしまいこんだ記憶のかけらを静かに呼び起こすように、我知らず一つの詩を口ずさみ始めた。
「 その上 ナ・ジラーグというありて
かの地ダルヴァミルにとどまり
奇しく織り成す数多の彩を縒り集めて
七と一つの水晶を造れり……
ずっと伝説のままでいてほしかったね、出来ることなら」
「それも叶わぬことじゃ」
マティロウサは大きく溜め息を一つついた。まるで国を一つ消してしまう程の魔力を使い果たした後のように、貌からは血の気が引き、鋭い瞳にはいつにない疲労の影がありありと見て取れた。
シヴィすら、話し終える前と後では顔付きが少しばかり変って見え、先程マティロウサに軽口を叩いていた時に比べると、やはり表情は暗い。
アサリィ茶がすっかり冷えきって茶碗の中に残っているのを見て、マティロウサは大儀そうに手を延ばし、机の端に置いてあるポットを引き寄せた。
「しかし」
少しばかり忌々しそうに、マティロウサは呟きよりも大きな声で言った。
「しかしまあ、一体何て話を手土産に持って来てくれたもんだろうね、まったく。そうと分かってたら、家に入れるんじゃなかったよ。ああ、腹が立つったら」
「八つ当たりはいかん、八つ当たりは。運命には逆らえんよ、いくら魔女のお前さんでもな。まあ、ここでうだうだ言っていても仕方のないことじゃ。そういうわけで、わしにも茶をもう一杯」
いつの間にか、シヴィは元の穏やかな顔に戻っていた。差し出した茶碗にマティロウサがぶつぶつ言いながら薬草茶を注ぐのに目をやり、シヴィはぽつりと呟いた。
「わしらがこの世に生を受けるそれ以前からの約束事じゃ。妖精達すら覚えておらぬ昔の事ゆえ」
「伝説の具現、か」
マティロウサが面白くなさそうにシヴィの言葉を引き取った。
「そういえば、この間、氷魔が同じような事を言ってたよ」
「氷魔というと? 魔道騎士の名らしいが」
「あたしが位を授けてやった子でね。まだ16のくせに一度で受かっちまった可愛げのない若造さ」
「ほう、16才でのう」
シヴィが興味をそそられたように身を乗り出す。先程までしていた深刻な話のことなどもう忘れてしまったかのようだった。話題が変わってむしろ喜んでいるようにも見える。
「それは、さぞ優秀な騎士であろうな」
「年若くして資格を得るのが優秀だというなら、もっと優秀な子がいるよ」
皮肉めかした口調で魔女は言った。
「そっちの方はもっと問題の多い子だけどね。魔白っていって、15になって五日も経たないうちに騎士になっちまったよ」
「15?」 さすがに驚いたようにシヴィが尋ね返した。「そんな子がいるのかね?」
「いるんだよ、それが」
「ほう。逢うてみたいもんじゃな」
「あんたとなら話も合うだろうさ。何てったって憎まれ口と減らず口と軽口しか知らない子だからね。しかも厄介なことに、このヴェサニールの跡継ぎで、やんごとない王女の身ときている」
「変わった娘じゃな。ますます逢うてみたくなった」
「逢えるかどうか。前はちょくちょくここに顔を出してたけど、今はそうもいかないらしくてね。何しろあんな話がいきなり持ち上がっちまっちゃあ」
「あんな、とは?」
シヴィの問いに、複雑な表情でマティロウサは答えた。
「結婚話さ」
→ 第二章・兆候 5 へ
一人になったサフィラは寝台の上に寝そべって、ぼんやりと取り留めのない考え事をしていた。
が、暫くして突然身を起こし、先程立ち去ったトリビアとリヴィールをもう一度呼び付けた。
「お呼びですか?」
明るい空色のドレスをひらひらさせてトリビアが、少し遅れてリヴィールが再び部屋に姿を現した。
「マティロウサの所へ行く。ブーツとマントの用意を」
「あら、まあ、随分お久し振りのことでございますわね」
「うん。夕方までには帰ると思うから」
「でも、父王様がお許しになられますかしら? ご結婚間近で、ただでさえ神経を磨り減らしておいでですのに」
リヴィールがマントの留め金をサフィラの肩に回しながら訝しんだ。
「何、どうせいつものお忍びだから、許そうが許すまいが構わないよ。でも、そうだな、もしお前達が咎められでもしたら 『結婚してやるんだから、文句は言うな』 とでも言っておけ」
そんなこと言えませんわ、と口を押さえる侍女達をどうにか取りなし、「安心しろ、ちゃんと戻ってくるから」と言って、サフィラは部屋を出た。
このまま逃げ出してしまいたいのは山々だが、と言い掛けて、思わず口を閉じたサフィラである。
街道の外れのマティロウサの家に、客が訪れることはめったに無かった。
薬草を分けて貰いに来る街の民や、魔道騎士の試問を受けに来る若者達、怪我をして運び込まれた人々以外に、この魔女の家の扉を叩く者は、サフィラとサリナスぐらいのものである。
もっとも、この二人は大抵の場合、呼ばれもしないのに押しかける口であるが。
訪れる人がないのは、人々がマティロウサを少なからず恐れていたせいもあるが、マティロウサ自身が人との付き合いを好まなかったことも一つの理由であった。
「こんな不健康な家の中に日がな一日閉じ籠って……」 サフィラはよくこう揶揄った。
「たまには外に出て人と話さないと、そのうち体に黴が生えて腐ってしまうぞ。まあ、もうそうなってるかもしれないが」
少しは年寄りに敬意を払ったらどうなんだい、と、その時はサフィラを罵ったものだ。
今、マティロウサは、例の暗く狭い小部屋の中で、相変わらず魔道の品々に囲まれながら、ぼんやりと蝋燭の灯りを睨んでいた。
その光に照らされて、マティロウサの他に今一人、壁に打ち付けられた棚の面に影を落としている人物がいた。
ウィルヴァンナではない。
ずっと小柄で、ずっと年降りている老人であった。
茶色とも緑ともつかない枯れ葉色の長衣は、薄暗い部屋の中では薄墨よりも濃い灰色に見え、向かい合っている魔女と同じくらいに皺を浮かべた、もっともマティロウサのそれよりは遥かに穏やかではあるが、その容貌は見る者の心に奇妙な親しみ安さを沸き上がらせる。
今、その老人は静かに目を閉じ、マティロウサの大きな机に片肘ついて頭を支えていた。
その表情は楽しげで、微かに微笑を浮かべているかのようにさえ見えた。
マティロウサは、本当に老人が笑っていると思ったらしく、思い切り眉をひそめて口を曲げた。
「一体、何が可笑しくてにやけてるんだい、え?」
その苦々しげな口調に、思わず蝋燭の火も影をひそめて細くなる。老人は文句を言われてなお楽しそうな様子で、言葉を返した。
「いや、別に何が可笑しいと言うわけではない。これがわしの地顔なんじゃから仕方がないじゃろう」
「ったく、何時見ても幸せそうな顔してさ。見てると腹が立ってくるね」
「お前さんは何時見ても怒ったような顔をしているから、ちょうど釣り合いが取れていいんじゃないのかな? うん」
「誰が人の顔の心配までしてくれって言ったかね」
「ほい、心配はしとらん。いい面相じゃ。人を怖がらせるにはもってこいの顔じゃな」
「そういう褒め方をされて、喜ぶ人間がいるとでもお思いかね。顔のことなんかどうだっていいんだよ、今は。あんただって、わざわざ人の御面相にケチつけに遠路はるばるあたしを訪ねて来たわけじゃないだろうが、ええ?」
「ふむ」
老人は、枯れた指先で白い髭に触れながら、相変らず人の良さそうな顔で思案に耽った。
→ 第二章・兆候 4 へ
「でも」 不審そうな目をサフィラに向けて、トリビアは言った。
「サフィラ様。父王様の命に従う、とか何とかおっしゃって、その実、何か良からぬ事を企んでいらっしゃるんじゃありませんの?」
一瞬、サフィラの心臓がぎくり、と音を立てたが、それを面に出すようでは魔道騎士の名折れである。努めて平然としてサフィラはトリビアに聞き返した。
「良からぬ事とは何だ、失礼な奴だな。十五年目にして漸く、親孝行でもしてやろうかなと思い立った私の真心を疑うのか」
我ながらよく言う、と思いながらも、サフィラは顔だけは大真面目で続けた。
「親の言う事に耳を貸さず、日がな一日魔道に明け暮れては、父上の心を悩ませ続けた。悪いことをしたと思っている。せめてこれからは父上に苦労をかけず……」
「私、はっきり申しまして」
サフィラの舌が浮くような言葉を遮って、トリビアが妙に強い口調で言った。
「今までずっとサフィラ様のお側務めをして参りましたが、私の経験から申しましても、サフィラ様がその様な殊勝なお方であるとは、失礼ですがとてもとても思えませんわ」
「確かに、その通りですわ、お姉様」 妹のリヴィールが姉の言葉を継いで口を開く。
「サフィラ様が、いくらお父上の命とはいえ、意に染まぬご結婚を黙ってお認めになるなんて、絶対に変ですわ。サフィラ様、一体何を企んでおいでですの?」
痛いところをつかれながらも、サフィラは平静に答える。
「随分な言われ様じゃないか。じゃあ何か、私が腹立ちの余り見境をなくして、城の一つでも破壊してみせればそれはいかにも私らしく、充分あり得る行動だ、とでもいうのか、え?」
「そうですわね、その方がサフィラ様らしくて納得できますわ」
「お前ね、人のことを怪物か何かみたいに……」
サフィラは思わずむっとした。主人と侍女の間柄も何のその、乳姉妹の気安さで、つい生意気な口を利いてしまうのも困り物である。
「さっきから聞いてると、お前達はまるで私を思慮思案とは縁のない原始人か何かのように思ってないか? 私はそんな浅墓で無鉄砲じゃないぞ。私だってもう子供じゃない。分別くらい持っているさ。何時までも駄々をこねて、年寄り連中を困らせようなんて不心得なことは考えていないよ」
ああ、歯が浮く、と自ら思いながらも、サフィラはいかにも殊勝な態度で言葉を切った。魔道騎士も口八丁、素人相手に冷静さを装えないで何とする。
不審そうな二人の視線が互いに相手を見合わせる。
「『分別』ねえ……」
トリビアがサフィラの脱ぎ捨てた衣装を腕に抱えながら、部屋のドアへと向かった。
「サフィラ様の口からそのようなご立派なお言葉が出るとは思いも寄りませんでしたわね」
「本当に、お姉様」
それはかなり失礼だぞ、とサフィラが言うより早く、トリビアとリヴィールは、『私達が信用するとでもお思いですか』とでも言いたげな表情をありありと面に浮かべて、そそくさと部屋を後にした。
さすがに、幼い頃からサフィラと共に育っただけあって、この侍女姉妹はサフィラの性格をよく知っていた。
二人を誤魔化すのは容易ではないかもしれない。
詮索好きで、おまけに勝手な推測が得意ときている。二人の口から洩れてサフィラの『よからぬ企み』が王の知る所となったら、また厄介なことになり兼ねない。
魔道を使って二人の気を逸らすのは至極簡単なことだが、幼馴染みにそんな真似をしたくはないし、何よりもサフィラ自身、魔道で人の心を思うままに操るのは嫌いなだった。
それは人の意志を殺すことであり、心を弄ぶことに他ならない。
そういうサフィラの潔癖な考えこそが、今、自分を悩ませているのだが。
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