「分からないんです~。助けてください~」というメールが。
聞いてみると、
去年、一昨年にワタシがやっていた仕事が、今年もまた動き出すということで
その同僚が新たに担当になったらしいんですが……。
でも、その同僚は正社員ではなく、実質的にはパートさんなので
担当になったと聞いたとき、
「え、こんな大きな仕事をパートさんに責任持たせるの?」と驚きました。
しかも、スパンが長い物件で、恐らく2、3ヶ月はかかりきりになる仕事。
まあ、パートとはいっても、彼女は幾つかの会社勤めを経て
その間に結構鍛えられているので
文章を書いたり、取材をしたり、かなり即戦力になってくれていたんですが
あくまでも作業者としての経験値が高いのであって
制作トータルを監修・ディレクションする経験はないから、
物件を丸ごと渡されて青ざめるのは当然。
さらに、今回の物件はわりと専門的な内容なので
ワタシなりに資料や手順を文書にして、次の人がやりやすいように引き継いできたつもりなんですけど、
まさか彼女が担当することになるとは思いもよらず、ちょっと心配になって
「じゃあ、明日、お昼でも食べながら、相談しよう」と返信。
次の日、会社の近くのレストランで、
そのパートの彼女と、もう一人、制作サイドの担当者の3人でランチをとりながら打ち合わせしましたが
2人ともかなり煮詰まっている様子。
「でも、その物件は、もともとワタシ一人がやっていたんじゃなくて、
●●さんと一緒に動いていた仕事だから、
会社を辞めたワタシに聞くよりも、●●さんに聞いたほうが早いんじゃないの」
と尋ねてみたら、
「●●さんは、もう他人事みたいな顔してます」
もう一人も、
「相談しても、『それはボクに聞かれても……』って言うんです」
「……」
●●さんというのは、当時のワタシの上司なんですが
今回の物件のクライアントについては
『自分が一番、このクライアントのことを理解している』と豪語してはばからなかった人。
「えーっと、じゃあ、今年は、●●さんは担当から外れて
アナタが全部一人で担当するっていうこと?」
「いいえ、今回も●●さんが一緒です。先方との打ち合わせも●●さんが行ってるし。
その後で、スケジュールと内容案を渡されて、『よろしく』って」
「え? え? 打ち合わせに行ってるのに、『ボクに聞かれても分からない』とか、ゆってるの?」
2人、声を合わせて。「はい」
「なんだそりゃ」
「最初は●●さんに、『この仕事、ちょっと手伝ってもらうから』って言われていたので
●●さんがメインで動くんだな、と思ってたんですけど
先方からの窓口は、いつの間にか私になってるんです」
「え? え? ヘルプで入ったのに、いつのまにか担当窓口になってるってこと?」
「そおなんですよ。あり得ます!?
私、先方との打ち合わせにも行ってないし、その時どんな話になったのかもちゃんと聞かされていないから、
先方から電話があっても、ちゃんと答えられないんです。
●●さんに詳しく聞こうとしても、外出・直帰で不在が多くて
運よくつかまえて尋ねても、『だいじょぶ、だいじょぶ。何とかなるから』って言うだけで。
でも、私、ゼッタイ、何とかなるとは思えないんです!」
「なんだそりゃ × 2」
2人の話を聞いてるうちに、ワタシも思い出してきました。
そういえば、●●さんは、そういう人だった……。それでワタシも苦労したんだった。
なにしろ、先方との顔をつないでおきたい人だから、
打ち合わせや立会いなどは積極的に出向くけど、
制作のこまかいことについては人任せ。
自分が関わりたいところだけ「これはボクの仕事だから」と手を出して、
面倒なことは「これはキミの仕事だから、自分で何とかして」と逃げる人。
でも、「ボクがやるから」と言ったことも、中途半端に手をつけるだけで、
面倒になってくると最終的には、「後はキミがやって」と放り投げる人。
在社時代は、なんでこんな男が管理職にいるんだ、と腹を立てたことも数多くあり、
もし、会社以外でこの人と出会っていたとしても、友人には絶対したくない人間ナンバーワンでした。
「……そりゃ厄介だわ」と、ワタシがしみじみ言うと
「大変なんです。だから助けてください!」
「……」
2人に泣きつかれてしまったので、とりあえずレストランを出て、
こっそり会社にお邪魔して場所を借りて
手順や、クライアントとの接し方などを簡単に説明し、その場は終わったんですが……。
でも、ワタシが説明したことは全て
本来なら●●くんがちゃんと彼女たちに説明しておかなくてはならないことばかり。
はあ……。
なんか、ナサケナイ。
前から思ってたけど、●●くん、使えなさすぎ。
初めて大物件を担当する部下に何のフォローもせず、相談にも乗ってやらず、
あり得ないことに、内容も把握しておらず。
そして、面倒なことからは逃げる。
あえて言おう。無能。
で、そんな●●くんを管理職に持ち上げた元・会社。分かってなさすぎ。
●●くん、口だけは達者だから、よく知りもせずに昇進させたんだろうなあ。
ナサケナイ。
前にも書きましたが、自分の会社、というか元・会社の悪い点を考えるたびに
「他の会社も、こんなもんなのかな……」と思いつつ
「でも、ウチよりはマシなんじゃないか……?」とも思ってしまう。
しばらくは、同僚からの「助けてメール」が続きそうな予感がします。
あー、今回は元・上司批判の内容になっちゃった。
ハコムラ・コンツェルンの総帥、笥村聖。
その存在は、現在ニホンに住み着く在りと在る人間たちにとって様々な影響をもたらしていた。
政治、経済面においては言うまでもなく、その力は文化、科学に至るまで広く及んでいる。
『大災厄』 後の世の中で、元々は単なる重機メーカーの一つに過ぎなかったハコムラが
次第に各種産業部門に手を伸ばし、勢力を広げ始めたのは、今から200年程前。
そして、小国ニホンの全土が死に物狂いで 『大災厄』 以前の世界復興に取り組んでいた中で
最も成功したのがハコムラだった。
現在では、ニホン最多の企業を独占し、もはや揺るぎない基盤を造り上げている。
ニホンがネオ・ファイブの一つに名を連ねることができたのは、
ハコムラの存在によるところが大きいのは周知の事実である。
笥村聖はその5代目総帥にあたる。
先代から受け継いだ資産を飛躍的に増大させたことで、
今や他者の追随を許さない政財界の雄として君臨している。
以前、J が退屈しのぎに目にした雑誌のコラム欄で、
とある社会学者は、笥村聖の存在を一つの 『文明』 とまで称していた。
何を大仰な、とその時の J は思ったものだが、
その意見は万民にとって否定しがたい要素も多分に含んでいることは、J も認めざるを得なかった。
その学者は様々なメディアを通じて断言して憚らなかった。
『かの統治者の名前は生まれ出た極東の地を確実に抜け出し、
今や全世界を覆わんばかりの帝国の代名詞となるに至った。
かような人物の損失がこの先この国を訪れる不運があったならば
我々は少なからず打撃を受けることは必至である。
仮にその打撃から復興する機会に恵まれたとしても、
以前の世界とは比類すべくもない無秩序と混乱が世界中に蔓延する結果となるであろう』
この男が笥村聖の強烈な信奉者であったことは誰もが認めるところであり、
男の馬鹿げた評価が彼の盲目的な信仰からきていることは明らかであった。
科学者の言葉の8割方は差し引くとしても、残りの2割を否定することは誰にもできなかった。
今のニホンの有り様を実際に目の当たりにすれば。
以前、笥村聖という人間について、諛左が J に漏らした言葉がある。
『ハコムラ・コンツェルンの総帥、笥村聖は金の力で全てを自分の手中にした。
あの男は表の世界で目についたもの全てにハコムラの烙印を押し、
それで世の中を良いように回している気になっている、ただの目立ちたがり屋にすぎん』
成程、諛左らしい言い回しだと J は思った。
そして、ついでのように諛左は付け加えた。
『奴が死んだら? 別に世の中は何も変わらない。
ハコムラの名が他の名称に取って変わるだけのことさ』
社会学者が発した陶酔的な意見よりは余程理にかなっている、と J は思ったものだ。
その 『目立ちたがり屋』 を捜してほしい。
それが、突然降って湧いた麻与香の依頼だった。
→ ACT 2-6 へ
「天下のハコムラ総帥夫人が、何の依頼か知らないけれど
こんなうらぶれた 『何でも屋』 の事務所にやってくるなんて、正直恐れ多くてね」
「うらぶれた、ねえ……」
麻与香は部屋の中を改めて見渡した。
遠慮も何もあったものではない麻与香の視線に眺め回されるだけで、
普段は気にならない部屋の狭さや、恐らく前の住人が残した壁の穴やシミなどが
あっという間に、惨めで風采の上がらない事務所の実態を浮き彫りにしてしまう。
というよりも、麻与香の存在そのものが、この部屋に似つかわしくないのだ。
色鮮やかなこの女がいるだけで、いつもの事務所が妙にかすんでしまう。
それが J には不愉快だった。実に。
胸中穏やかならない J に追い討ちをかけるように、麻与香がぽつりと呟く。
「確かに繁盛してるとは思えないわね」
「余計なお世話だ。今のあたしには、こういう物件で充分なの。特に不満はありません」
「そう? 好きでやってるならいいんだけど」
「好きでやってるんです。放っとけ、他人の労働環境」
J はじろりと麻与香を睨んだ。
「麻与香。あんた、人の事務所の品定めしに来たの?」
「そうじゃないけど、カレッジ以来、久しぶりに会うアンタだもの。
どんな暮らしをしてるのか、気になるじゃない?」
「気にしなくていいから。あたしの貧相な生活話は、もうおしまい」
「あら、そう? じゃあ、カレッジの思い出話でもする?」
「絶対しません」
「冷たいわね」
「仕事の話を」
「もう少し別の話、しましょうよ」
「麻与香」
忍耐という言葉は、まさに今、自分が置かれている状況のことを言うのだろう。
J は今すぐ事務所から飛び出してしまいたい気持ちを何とか抑えた。
「あんたが、ここに来た目的は、何?」
「もちろん、仕事の依頼よ。一応」
「じゃあ、その話をしてもらいたいんだけど」
「そんなに急がなくてもいいじゃない」
「麻与香っ」
「分かったわよ。つまんないわね」
ようやく麻与香は依頼人らしいポーズに移っていった。
「じゃあ、仕事の話だけど……アンタに頼みたいのは、人捜しよ」
それまでの他愛もない会話と違って、麻与香の言葉は端的だった。
挑むような麻与香の視線を一度受け止め、J は少し苛立たしげに目を逸らした。
「捜すって、誰を」
「ヒジリ」
J の目が、文字通り丸くなる。
「……は?」
J は自分が聞き間違えたのではないかと思った。
何故なら、たった今、耳にした名前は、確か……。
だが、麻与香は J を真正面から見据え、ゆっくりと頷いた。
「そうよ」
何か文句でもあるの、と言いたげな麻与香の瞳が狐のように性悪な光を放った。
「亭主を探して欲しいのよ。笥村聖を」
→ ACT 2-5 へ
「いまも黒が好きなのね」
黒いシャツに黒い革のパンツという J のいでたちに目を走らせた麻与香が尋ねる。
「相変わらず似合ってるわよ。ホント、昔と変わらないわね」
「ああそう」
J は素っ気なく返事をした。
しかし、麻与香の質問は J の答えを待たない。
「ねえ、アンタ、今でもワインが一番好きなの?
今でもローラーブレードのレースが好きなの?
今でも車に乗るのが嫌いなの?
今でも寒い夜に窓を開けて月を見るのが好きなの?
今でも地図見るのが苦手なの?
ねえ、どうなの?」
「……」
麻与香のトークは止まらない。
この女こそ、本当に昔と変わらない。
特に、こういうところ。人の話を聞こうともせずに喋り続けるところ。
J はただ黙って麻与香が話すに任せていた。
それはカレッジ時代と同じく、J と麻与香の間で交わされる不自然な会話の光景だった。
「ねえ、それから……。
アンタ、まだ 『お父さん』 のコト、嫌いなの?」
「……」
問うと同時に、麻与香の表情には一瞬だけ意地の悪さが加わり、
それにもかかわらず一層際立つ美貌が J に向かって探るような笑みを飛ばしていた。
頑なに無表情を作っていた J だったが、その時だけ眉根を寄せて、ふと顔をしかめる。
今も昔も、この女は聞かれたくないことを平気で尋ねてくる。
いや、むしろ、相手 が話したくないことだからこそ、
ことさらに聞き出そうとする邪な意志すら感じられる。
こういうところも、昔のままだ。
J は一層仏頂面を決め込んだ。
その憮然とした表情を麻与香は面白そうに見つめている。
「……面白くないって顔してるわ」
「してるよ」
J はきっぱりと言った。
「今、あたしがどうしてるとか何してるとか、そゆコトはどうでもいいから。
別に聞いて面白い話でもないだろうし。
それよりも、話のネタになりそうな人生送ってんのは、むしろ、あんたの方だろう」
2、3度煙草の煙を吐いて、J はようやく気を取り直した。
「しがないダウンエリアの一住人と違って、
笥村麻与香、旧姓・耶律麻与香の動向は今やニホン人のほとんどが注目している。
なにしろ天下のハコムラ・コンツェルンの話題はあらゆるメディアでことあるごとに持ち上がるから」
J の言葉に含まれる皮肉の空気を正確に読み取り、麻与香は少し笑った。
→ ACT 2-4 へ
千代子が二人分のカップを手に静かに部屋に入ってくる。
ダウンエリアのコーヒーが、果たしてハコムラ・コンツェルンの人間の口に合うかどうか。
もっとも、合おうが合うまいが J にとってはどうでもいいことだった。
大柄な千代子の姿がドアの向こうに消えると、麻与香はいきなり尋ねた。
「ねえ、表のドアに書いてあった J of all trade って、事務所の名前?」
「まあね」
「『 J 』 って、『Jack 』 の略? それとも 『 J・E・N・フウノ 』 の J ?」
「……さあね」
覚えていたのか、本名を。しかもフルネームで。
J・E・N・フウノ。
今では呼ばれることもほとんどなくなったその名前を麻与香に口にされたことで、
既に J はウンザリしていた。
J の胸中を察することもなく麻与香は話し続ける。
「ふうん、ここがアンタのオフィスか……。なんか想像してたのとちょっと違うわね」
辺りを見回す麻与香の視線の先には、
恐らく彼女が住む世界とはまったく異なる、うらぶれた光景が映っているのだろう。
目の中に見え隠れする物珍しげな表情がそれを語っている。
「どんなところを想像していたかは知らないけど、ご期待に添えなくても謝る気はないから」
「ふふ。やっぱりアンタ変わってないわね。捜させた甲斐があったわ。
あたし、アンタにずっと会いたかったの」
J は思わず口を閉ざした。
成程。
この女は、何年も会ってない人間の消息をわざわざ捜してまで、ここへやってきた訳か。
J は煙草に手を延ばした。
吸う前から頭がクラクラした。
ライターを点ける音が妙に J の手元から遠く聞こえる。
いつもなら吸う前に依頼人に伺いをたてるところだ。
だが、麻与香にいちいち許可を得る気は J にはなかった。
麻与香の方もそんなことは気にしない。
黙り込む J を見つめて、自分もバッグから華奢なシガレットケースを取り出すと、
優雅な手つきで火を点ける。
スリムで長い西洋煙草の趣味も昔のまま。
酷薄な微笑みも昔のままだ。
麻与香は艶々とした赤い口紅の間から細い煙を糸のように吐き出して J を見た。
「卒業以来会ってないけど、あたしはアンタが何処で何をやってるかずっと気になっていたわ。
アンタのこと調べさせたら、
この事務所のことも呆気ないほどすぐに判って、ちょっと拍子抜けしちゃった」
「……」
J は心の内で軽く舌打ちをした。
カレッジ時代、麻与香は何故か事あるごとに J に付きまとってきた。
J にとっては不本意極まりない麻与香の執着は、
二人が顔を会わせなくなって久しい今までも続いていたらしい。
会う機会がなくなれば、自分のことなど記憶からも薄れていくだろう。
そう J が望んだ予想図は麻与香にとっては無意味だったようだ。
→ ACT 2-3 へ
録画したかったけど、PSX は修理中。
でも、どうしても残したかったので、今はすっかり使わなくなったビデオデッキが再登場。
PSXが戻ってきたら、改めてビデオからハードに落とそう、と思って安心していたんですが、
番組が終わる前に、ビデオデッキから突然テープを巻き戻す音が……。
え? ちょっと待て。テープ、終わったの? 何で?
今まさに、クライマックスだよ。
ヤンクミが教室で生徒の前でシミジミと語ってる、いいシーン。
なのに、テープは無情に巻き戻されて……。
……使ったテープの分数、間違えたんですね。
あともう少しだったのに、最後の最後でテープが足りずに
中途半端に録画されてしまいました。
プチショック。
「ちっ、PSX が修理中でなかったら……」なんて思っていたら
その30分後にミスター・コンセントから電話が。
「お預かりしていたPSX、修理から戻ってきました」
……タイミング悪っ。
もう数時間早ければ、ちゃんと録画できたのにぃ。
予定では、21日の月曜日に戻ってくることになっていたんですが
2日早く直った! と喜ぶ気にもなれず。
まあ、こんなこともタマにはあるさ、と自分を慰め、
すぐにPSX を取りに行って、
その夜始まった「ごくせん3」は無事に録画できました。
で、「ごくせん3」見ましたが。
うーん。
ワタシ的には、やっぱり「ごくせん1」の方がいいなあ……。
いや、ストーリー云々ではなくて、ただのマツジュン好きだから。
裏番組では「パイレーツ・オブ・カリビアン」の1をやってましたね。
「ごくせん3」を録画しつつ、時々チャンネル変えてそっちの方も見てました。
ジョニー・デップの声の吹き替えをやってる平田広明さんが大好きなので。
平田さんの声って、なんか力が抜けていて、それでいて渋い。
ワンピースのサンジの声や、昔やってた最遊記の悟浄役も、確か平田さんだったと思いますが
どちらも好きなキャラです。
……えーっと、何の話だっけ?
ああ、そうそう、要するにPSX が戻ってきた、という話だった。
録画してあったものも無事に残っていたし
DVD も見ることができるし、ゲームもできる。
エンターテインメント・ライフ、再開です。
そんだけ。