忍者ブログ
蝶になった夢を見るのは私か それとも 蝶の夢の中にいるのが私なのか 夢はうつつ うつつは夢


[75]  [76]  [77]  [78]  [79]  [80]  [81]  [82]  [83]  [84]  [85
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ACT 2  - The worst of friends must meet -



カレッジ以来会っていない人間に会う時というのは、誰でもこんなふうに気が重いものだろうか。
胸の中に忍び寄る鬱な気分を、J は何とか抑えようとした。

8年ぶりの再会。

しかし、どれだけ時間が経ってもあの女は変わらないだろう。
それだけは言える。

憂鬱そうな J をからかうように眺めながら、諛左はドアに向かって歩き始める。
その姿を目にした J は少しばかり慌てた様子で言った。

「ちょっと待った、諛左。どこ行くんだ」

「久しぶりのご学友に会うんだ。部外者の俺は席を外すさ」

「部外者ってね、お前、厄介事を運び込んでおきながら、自分は高みの見物する気か?」

「いやいや、積もる話もあるだろうし、俺がいない方が頼み事をしやすいと思ってね。
ここは気を利かせるさ」

普段はロクに気を遣おうともしないクセに、こんな時だけ、この男は。
J は苛立たしげに机を指先で2、3回叩いた。

「余計な気の利かせ方はしなくていいから、お前もここにいなさい」

「照れるなよ……おっと、失礼」

最後の言葉は、出て行こうとする諛左と入れ違いに部屋に入ってきた人影に向かって発せられた。

ドアをくぐって現れた人物を目の前にした時、J の予想は確信に近いものとなった。


変わらない。

目の前に立つカレッジの同期生を見て J は即座に思った。
そこにあった麻与香の美貌は以前と変わらない。
否、さらに輪をかけて壮絶な輝きをたたえていた。

やや褐色を帯びた肌と暗い緑の瞳。
ゴージャスに流れる黒髪。
厚めの蠱惑的な唇。
時に甘く時にハスキーな声。
極東の名を持ちながら、不思議とエキゾチックな西の香りを漂わせる風貌。
それが、どこかしら謎めいた部分を見る者に抱かせる。

この女は時間の流れすら自分の良いように手なずけているらしい。
J は8年間の歳月の無意味さを実感した。


「変わらないわね」

麻与香は J をしばらく見つめると、開口一番、J が思ったことと同じ台詞を言った。
忘れていた甘い声が妙に不愉快な響きを伴って J の耳に届く。
勧められてもいないのに麻与香はテーブルの傍らにある椅子に腰掛けた。

J が麻与香との再会に圧倒されている間に、諛左はとっくに姿を消していた。

あの野郎。
今は見逃すが、後でせいぜいこき使ってやるから覚悟しろ。
J は心の中で毒づいた。



→ ACT 2-2 へ

PR
なし崩し的に始まった「PURPLE HAZE」のACT1が、ようやく終了しました。

前作の「水晶異聞」とは、ずいぶん違うイメージのお話しですが
読んでくださった方々はどのような印象をお持ちになったでしょうか。

相変わらず、ストーリーの展開が遅いです(だから長い話になるんです)。
しかも、地の文章の中で登場人物の心情を語ったりしているので
ちょっと読みにくいかもしれません。

一応、三人称で書いていますが、
実質的には1人称みたいな文章です。ちょっとズルいかな。

でも、これからもこういうテンポで進めていくと思いますので
明日から引き続き始まる ACT2 もご愛顧のほどを……。


ちょこちょことメールなんかもいただいています。
感想など聞かせていただいて、すんごくウレシかったです。
励みになりますので、
メールやコメントなど、これからもよろしくお願いします。

ランキングの方も、ジワジワと上がっている様子です。
うれしい限りです。皆様のおかげです。
読み終えた後で、ポチッとクリックしていただければ、幸せでございます!

「ところでさ」

J は諛左をちらりと見て尋ねた。

「こんなヤマ、どっから引っ張ってきたの」

「ん?」

何のことだ、と言いたげな諛左の瞳が J を見返した。

「とぼけるんじゃないよ、諛左。
ウチみたいな事務所に、天下のハコムラから話が舞い込むこと自体がおかしい。
お前……またミョーなところから仕入れてきたんじゃないだろうね」

「それは企業秘密だ」

ふざけんな。
雇い主が知らない企業秘密なんてあるか。
J は思ったが、口には出さない。

『まともな雇用主がいる、まともな企業なら、ないだろうな』

冷たい口調でそんな台詞が返ってくるに違いないからだ。

それにしても、笥村麻与香とは。
J は腕組みをして天井を仰いだ。
灰色にくすんだ打ちっぱなしのコンクリートに、ところどころ変色したシミが見える。
いつもは気にならないが、今日の J にはそのシミが何故か疎ましく感じられた。

「 J 」

見るからに気が乗らない表情を浮かべる J に、諛左が声をかける。

「網にかかれば何でも魚、だぞ」

「……」

要するに、仕事の選り好みをするな、と言いたいのだろう。古い諺だ。

だが、かかった魚が毒々しい色の鱗と棘のある背びれを持っていたら?
食べれば病院行きになること間違いない毒魚だったら?
漁師だってきっと躊躇するに違いない。

それ以前に、選り好みをさせてもらえない立場の J にとっては、意味のない喩えである。

『ハコムラ』 という名前が問題なのではない。
『笥村麻与香』 が問題なのだ。
少なくとも、J 個人にとっては。

J はため息を一つついてカップを手にとると、残っていたコーヒーを一気に流し込んだ。
気のせいか、胃の辺りが重い。

カップを干すか干さないかの内に、再び千代子が現れた。

「笥村様がお見えになりました」

あくまで事務的な口調が、緑青色の目の光を伴って J の返答を待っている。

J はすぐには返事をせずに、傍らの諛左へと視線を泳がせた。
予測していたかのように諛左がそっぽを向く。

J は壁にかかっている時計に目をやった。
10時半をもう少しで回ろうとしている。

「予定より30分前か。昔は時間にルーズな女だったのに」

「懐かしいオトモダチに早く会いたいんだろう」

「うるさい」

軽く諛左を睨むと、J はため息を一つついて千代子に答えた。

「……通して」

「承知しました」

J は覚悟を決めた。

 

- ACT 1 -  END


   → ACT 2-1 へ

J が2歳年上の麻与香と初めて出会ったのは、カレッジに入ってからの事だ。

その後、麻与香が卒業して
兼ねてより予定されていたハコムラ・コンツェルンの総帥夫人に納まるまで、
J にとって不本意なことこの上ない麻与香との親交は、ほぼ2年間続いたことになる。


『結局』

笥村聖との婚約が報道された翌日、麻与香と交わした言葉を J は思い出した。

『あんたは楽に人生を送る方法を手に入れたわけだ、麻与香』

『楽ってこともないと思うわよ。
これからコンツェルンに群がるハイエナを相手にしていかなきゃならないんだから』

麻与香は笑っていた。
人並み外れた美貌が麻与香の嘲るような微笑みに紛れる。
それがひどく残酷に見えたことを J は覚えていた。

J の記憶の中で、それが麻与香と交わした最後の会話だった。


「……どうした、J 」

諛左の氷の声が J を現実に引き戻した。

「懐かしい名前を聞いて思い出話でも浮かんだか」

「そんないいもんか」

J は緩慢に首を振った。

「あたしがあの女と仲良しだったとでも思ってんの?」

「さあね。どこかキレた人間同士、さぞ気が合ってたんじゃないのか」

J は諛左の二度目の皮肉を無視して、その日何本目かの煙草に苛だたしげに火を点ける。
渦巻く煙の中に麻与香の顔が嘲るように浮かんでいた。


諛左に言われるまでもない。

麻与香の名前は記憶の呪文を解き、J 自身が忘れていた昔の自分を思い起こさせた。
思い出したくないあれこれが頭の中に浮かんでは消えていく。

J は無意識のうちに右手の薬指を親指で弾いていた。
弾かれた指には板金の装飾品が鈍く光っている。
指輪ではない。
メッキをした丸い薄金を指に合わせて巻き付けただけの飾りだった。
表面には荒い線で何かの模様が打ち付けられている。

華奢な薬指の第二関節を覆わんばかりに光を放っているこの指飾りを J は外したことがない。
その指を弾くのは、J がよくやる癖の一つだった。

そんな J の様子を、煙草をくゆらせながら諛左は黙って見ている。
感情を控えた視線が相変わらず冷たい。

ふと気配を感じた J が顔を上げると、目の前にコーヒーを運んできた千代子が立っていた。

この女は立ち居振る舞いすら無声映画のように静かで
それでいて存在感は人並み以上にある。
無言でトレイをテーブルの上に置き、無言で部屋を出てく。

千代子の後ろ姿が扉の向こうに消えるのを眺めながら、J はカップに手を触れた。
コーヒーの苦さが、起きてからワインと煙草の煙しか口にしていない J の身体に染み渡った。



→ ACT 1-16 へ

またもや古本屋へ。

段ボール箱2つに入れていったんですが
予想通り、買い取ってもらえたのは、半分以下。それで500円。

うーん、悲しい。

悔しいので、哀れにも出戻ってきた本の一部を撮影してあげました。
これら。



米田さんの画集とかは、大丈夫だろう、と思ってたんですけど、あえなくOUT。
大型チェーンの古本屋だと、古いものはやっぱり買取不可なのね。

今度、別の古本屋さんに持っていこう。
そこでも断られたら、諦めて処理してもらおう。ちぇっ。


で、今日行った古本屋では、中古ゲームなども売っているので
ついでに売り場を回ってみました。

最近は、ゲームもすっかりご無沙汰ですが、
オモシロそうなものがないか、一応チェックだけはしている私です。

でも、ないんですよね。

好きなのはRPGかシミュレーションなんだけど、
最近のモノは、どれもこれも同じに見えて、どうも食指が動かない。
グラフィックはキレイなんだけど、成長システムやストーリーがイマイチなんじゃなかろうか。
時々、「新感覚RPG!」なんてキャッチコピーのモノもありますけど
なんかちょっと馴染めない。

新しいのを買うよりは、昔のPSソフトを引っ張り出して遊んだ方が
思い入れもある分、まだ楽しいかも。

年寄りの偏見ですが。

といっても、頼みのPSX が修理中だで
遊べないんですけどね。

最後にやったゲームはPS2 の「大神」。懐かしいなあ。
これは、なんかハマりました。
グラフィックがワタシ好みの和風テイストで、全編通して筆タッチというゲーム。
ミョーに癒されました。

それ以外は、ほとんど遊んでない……。
あ、DS があったか。これも、あまりやってないけど。

一応、DS ソフトのコーナーも見て回りましたが、やはり、どうも……。

昔は、オモシロそうなゲームは、とにかく衝動買いしてましたが
最近はそんなムチャもしなくなりました。

でも、
早くドラクエのⅤ以降が DS で出てくれないかなあ。


結局は、昔自分がオモシロい!と思ったゲームの域から出ることができない
年寄りのタワゴトでした。

「よりによって、なんて依頼を持ってくるんだ、諛左。麻与香だって? 全く……」

眉間に指を当てて顔をしかめる J を無視して諛左は言葉を続けた。

「旧姓、耶津(ヤリツ)麻与香。27歳。ニホンのTKポリス・シティに生れる。
現状と違って 『裕福』 とは無縁の幼年時代を過ごす。
両親は麻与香が9歳の時に事故で死亡。
以後、父親の義理の弟の世話になる。義理の叔父の名は……」

「知ってる。鳥飼那音(トリガイ・ナオト)だろ」

J は憮然として口を挟んだ。

「若くて金持ち。『いかにも』 って感じのヤバそうな男だった。当時はね。
ついでに言えば、チビで童顔」

「さすがに記憶力はいいな」

「今まで忘れてたさ。というか、思い出させるなよ」

諛左は肩を竦め、言葉を続ける。

「その鳥飼がどんな素性でどんな風に成り上がったのかは余り知られちゃいない。
麻与香の実父と共同で事業を興したらしいが、その経営はうまくいっていなかったようだ。
兄弟仲は極めて空々しい間柄だった。
鳥飼と違って、父親の方はまったくの堅気で、
方針の違いから口論は日常茶飯事だったというのが当時の仕事相手の意見だ」

「麻与香の両親の死因だって本当に事故かどうか怪しいもんだね」

「という噂も当時はあったらしいな。
裏の世界に手を染めて成り上がり続けた鳥飼だが、
麻与香の結婚によってコンツェルン内部での株主というポジションを得た。
育ての親に対する麻与香の感謝の念か、
または単に那音の方から取り入っただけなのかは知らないが、
成り上がりもここまでくると一つの才能だな」

「そんな話に興味はないよ」

J は面倒そうに頭を振った。

「あたしが知ってるのは、
そのヤバい男に育てられた麻与香は、どっかのネジが一本外れちまったってことだけ。
麻与香に言わせりゃ 『那音には何から何まで教わった』 らしいけど」

「何を教わったのかは怪しいが、彼女自身の頭脳は相当なもんだったようだな。
ジュニア・スクール、ハイ・スクールともに五指に入る成績を通し、特待生として学費免除。
その上、飛び石でセントラル・カレッジへ進級。たいしたもんだ」

諛左の言葉に皮肉の色が浮かんだ。

「どこかで聞いた話だと思わないか、J 」

J はちらりと目の前にいる男に視線を投げた。
そして、すぐに反らす。

「それから?」

「それから? その先はお前の方が詳しいだろう?
何しろキャンパスでの 『オトモダチ』 だったんだからな」

「……」

押し黙って J は諛左を軽く睨んだ。
自分の中で、否応無しに当時の記憶が呼び覚まされていくのを、J は感じていた。



→ ACT 1-15 へ

プロフィール
HN:
J. MOON
性別:
女性
自己紹介:
本を読んだり、文を書いたり、写真を撮ったり、絵を描いたり、音楽を聴いたり…。いろいろなことをやってみたい今日この頃。
最新コメント
承認制なので表示されるまでちょっと時間がかかります。(スパムコメント防止のため)
[02/07 名無権兵衛]
[06/20 ななしのごんべ]
[05/14 ヒロ]
[04/19 ヒロ]
[11/06 ヒロ]
いろいろ
ブログパーツやらいろいろ。
※PC環境によっては、うまく表示されない場合があります。


●名言とか





●ブクログ





●大きく育てよ、MY TREE。



●忍者ツール



ランキング参加中
カレンダー
12 2025/01 02
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
月毎の記事はこちら
ブログ内検索
携帯版バーコード
RSS
Copyright © 日々是想日 All Rights Reserved.
Powered by NinjaBlog  Material by ラッチェ Template by Kaie
忍者ブログ [PR]