ACT 2 - The worst of friends must meet -
カレッジ以来会っていない人間に会う時というのは、誰でもこんなふうに気が重いものだろうか。
胸の中に忍び寄る鬱な気分を、J は何とか抑えようとした。
8年ぶりの再会。
しかし、どれだけ時間が経ってもあの女は変わらないだろう。
それだけは言える。
憂鬱そうな J をからかうように眺めながら、諛左はドアに向かって歩き始める。
その姿を目にした J は少しばかり慌てた様子で言った。
「ちょっと待った、諛左。どこ行くんだ」
「久しぶりのご学友に会うんだ。部外者の俺は席を外すさ」
「部外者ってね、お前、厄介事を運び込んでおきながら、自分は高みの見物する気か?」
「いやいや、積もる話もあるだろうし、俺がいない方が頼み事をしやすいと思ってね。
ここは気を利かせるさ」
普段はロクに気を遣おうともしないクセに、こんな時だけ、この男は。
J は苛立たしげに机を指先で2、3回叩いた。
「余計な気の利かせ方はしなくていいから、お前もここにいなさい」
「照れるなよ……おっと、失礼」
最後の言葉は、出て行こうとする諛左と入れ違いに部屋に入ってきた人影に向かって発せられた。
ドアをくぐって現れた人物を目の前にした時、J の予想は確信に近いものとなった。
変わらない。
目の前に立つカレッジの同期生を見て J は即座に思った。
そこにあった麻与香の美貌は以前と変わらない。
否、さらに輪をかけて壮絶な輝きをたたえていた。
やや褐色を帯びた肌と暗い緑の瞳。
ゴージャスに流れる黒髪。
厚めの蠱惑的な唇。
時に甘く時にハスキーな声。
極東の名を持ちながら、不思議とエキゾチックな西の香りを漂わせる風貌。
それが、どこかしら謎めいた部分を見る者に抱かせる。
この女は時間の流れすら自分の良いように手なずけているらしい。
J は8年間の歳月の無意味さを実感した。
「変わらないわね」
麻与香は J をしばらく見つめると、開口一番、J が思ったことと同じ台詞を言った。
忘れていた甘い声が妙に不愉快な響きを伴って J の耳に届く。
勧められてもいないのに麻与香はテーブルの傍らにある椅子に腰掛けた。
J が麻与香との再会に圧倒されている間に、諛左はとっくに姿を消していた。
あの野郎。
今は見逃すが、後でせいぜいこき使ってやるから覚悟しろ。
J は心の中で毒づいた。
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