……そのような事情があるにもかかわらず、相変わらず NO は事務所に入り浸っている。
しかも、恐らくは NO が書類申請を後回しにしているせいで、ガラス代は未払い。
たとえ、NO の性格や気性を差し引くとしても、
大きな顔をして当たり前のように居座るこの男に、J や諛左がいい顔をするわけはないのだ。
そのことを持ち出されて、さすがに NO は鼻白んだが、それで怯むような男でもない。
「ビンボー事務所なのは判っているが、ガラスの1枚や2枚で、セコいんだよ、てめえらは」
NO は諛左を睨み付けた。
「払わねえ、とは言ってないだろうが。それなのに、いつまでもグダグダ言いやがって。
ホントに、しつこい男だぜ」
「口約束はゴメンだ。お前は3分前のことも忘れるトリ頭だし」
「俺がトリなら、てめえは執念深いヘビだよな。
毎月毎月、嫌がらせのようにきっちり請求書を送ってきやがって」
「一応、こちらは忘れていないということをアピールしておかないとな。J がウルサイし。
これ以上、未払いのままだと、そのうち督促状に変わるかもしれないぞ。
……で? 今日は何の用だ」
会話に飽いたように、諛左が尋ねる。
「やっぱり暇つぶしか。それとも、署内に居づらくて避難でもしに来たか」
「てめえに用はねえ。お前のボスを待ってんだ。何か悪さをしてないか、巡回ってヤツだ。
犯罪は未然防止が一番だからな」
「未然防止ねえ……」
諛左が皮肉な目を向ける。
「一歩間違えれば、単なるストーキングだな。
それならそうで、ここじゃなく外に出て好きなだけ待ってろ。お前がいると部屋の空気が濁る」
「ここは禁煙じゃないだろう。てめえだって吸ってやがる癖に」
「煙草じゃない。酒臭いんだよ、お前は。そこに居るだけで、腐った肝臓の匂いがプンプンする」
「俺の肝臓が腐って、お前に迷惑かけたか」
「かけられてたまるか。出て行け」
「邪魔はしてねえぞ」
「存在そのものが邪魔だ。目障りなんだよ」
「この野郎、相変わらずの口の悪さだな」
「お前が言えるコトか」
答えながら、諛左は胸元のポケットから煙草を取り出した。
その視線を、NO の背後で困ったように立っている2人の人影へと移す。
「あんた達も大変だな。毎度毎度、このオヤジのお守りは疲れるだろう」
言葉ほど同情しているふうでもない諛左であったが、
不二沢は 「まったくです」 と相づちを打ちたくなるのを辛うじて堪えた。
そしてショーンは、常になく微妙な表情を顔に浮かべ、
それが返事であるかのように諛左を見ている。
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