この前、実家に帰るとマンマが、
「今、ウチにね、ケンちゃんがいるのよ」 と、いきなり言い出した。
ケンちゃん?
誰だ、それ。
誰だ、それ。
親戚?
いや、親戚で 「ケンちゃん」 と呼ばれるような人は、いなかったはず。
それともマンマのトモダチ?
いやいや、それにしては初めて聞く名前。
なんだかミョーに親しげな呼び方が、ちょっと気になるが……。
……はっ。
ま、まさか、ワタシが知らない間に、お付き合いしてる人とかっ!?
数年前に父親が亡くなってから、もうだいぶ経つし、
そういうことがあってもおかしくないっちゃ、おかしくない……。
いやいや、でも、マンマはかなりのトシだし、
今さらそんな、男の人とどうこうなんて……。
……いやいやいや、恋に年齢は関係ない。
「女は灰になるまで」 とか、聞いたことあるし。
もしかして、もしかしすると、
その 「ケンちゃん」 とやらが、あ、新しい父親にっ!?
……と、ひとしきりあり得ない妄想をやり遂げた後、
マンマに引っ張られて、我が家の庭へ。
「ほらほら、あれがケンちゃん」
「ど、どれっ」
「だから、あれ」
「だから、どれっっ」
「見えんの? あそこ」
そう言ってマンマが指差した場所には、
……。
……。
……石?
それは、以前から庭にあった石のひとつ。
それがある時から、石の表面のくぼみが人の顔のように見え始め、
しかも、なんだか笑っているような顔に見えるため、
マンマが 「ケンちゃん」 と名付け、日々眺めて和んでいるそうな。
なんだ、石かよ。
とりあえず、新しい再婚相手ではなかったようだ。
それはともかく、この石、確かに人の笑顔に見える。
自然にできたものとはいえ、
人の顔のパーツがいつのまにか仕上がっている、というのも、
不思議と言えば、不思議。
マンマの話によると、
ご近所の間では、このケンちゃん、なんだか地味に評判がいいらしい。
ウチのマンマが年のわりに元気なのは、
このケンちゃんのご利益のおかげではないか、と
ヒマな時に眺めに来る人も結構いるとか。
まるで、石仏さま並みの扱いである。
「なんでまた 『ケンちゃん』 なの?」 とワタシ。
「だって健康をもたらす健康石の 『ケンちゃん』だから」
……意外と安易なネーミングだったりする。
その後、ワタシはこのケンちゃんの写真を撮らされ、
さらにそれを10枚ほどプリントすることになった。
なんでも、ケンちゃんの写真を欲しがる人がいるので、ご近所に配るんだとか。
なんて人気者なケンちゃん。
まあ、ケンちゃんを毎日見ることで
マンマやご近所さんが健康でいられるなら、それはそれでいいんだけど。
うちのマンマは、結構年寄りなのに、
自分はまだまだ大丈夫、と過信して疑わない人で、
時々、家仕事、庭仕事でムチャをして体調を崩すことがあるから。
これからも、マンマを見守ってやってちょうだい、ケンちゃん。
でも、見る角度によっては、ちょっとコワイぞ、ケンちゃん。
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