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蝶になった夢を見るのは私か それとも 蝶の夢の中にいるのが私なのか 夢はうつつ うつつは夢


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マティロウサは、いまだぼんやりとしている娘に近づき、大丈夫かい、と気遣わしげに声をかけた。
その声に正気を取り戻したウィルヴァンナは、自分を覗き込んでいる魔女の顔に気づくと、少し興奮したように魔女の腕にすがった。

「見えたような気がしました。どうすればいいのか、少しだけ見えたような気が……」 

「……そうかい」 

マティロウサは、上気したウィルヴァンナの顔をしばらく見つめていたが、やがて観念したように深く息をついて言った。 

「その感覚を忘れるんじゃないよ。今はたまたま」ちらりと老シヴィに目をやる。
「余計な爺さんが手を出したから出来たようなもんだからね。いずれは自分で自分の力を回すことをちゃんと覚えなきゃならないよ」 

「はい、マティロウサ、はい」

ウィルヴァンナはまだ気分の高揚を抑えきれない様子であったが、やがてそれを上回る疲労感が少しずつ全身に襲い掛かかってくるのを感じ、息を荒くした。 

「今日はここまでだ。もう休んだ方がいいね」 

マティロウサの言葉に小声で何とか返事をすると、ウィルヴァンナは魔女の手助けを借りてふらりと起き上がり、そのままよろよろと家の中へ戻っていった。
魔女はしばらくの間その後ろ姿を見ていたが、ため息をつくと自分ものろのろとその後を追った。

後ろ手に扉を閉めたマティロウサは、部屋の中を見て軽く目を見開いた。
先程起こった風によってあらゆる物が散乱していた部屋の中はきちんと片付き、書物も巻物もすべてあるべき物があるべき所に収まっていた。
おまけに机の上には、さっきまでなかった筈の茶碗が二つ、どちらにも淹れたてのアサリィ茶が並々と注がれて湯気を上げていた。
シヴィの仕業である。

魔女はそれを一瞥して、不機嫌そうに言った。 

「ふん、ご機嫌取りのつもりかね」 

「まあ、そう言わんと」 シヴィが椅子の上に腰掛けながら、片方の茶碗に手を伸ばす。
「お前様も一息入れたがいい、魔女殿」 

「まったく。『見てるだけ』 って言っただろう? それを余計な手出しをして。いくら 『跳ぶ』 のがあんたの得意技だからってね、勝手なことをしてもらっちゃ困るんだよ」 

「だから、ちょっと手伝っただけだと言うとるのに」

自分自身を今いる場所から別の場所へ移動させる、つまり魔法使いの言葉では 『跳ぶ』 と言われる魔法の訓練をウィルヴァンナが行ったのは初めてである。その訓練に、見たい見たい見るだけ見るだけ、と騒ぐシヴィを同席させたはいいが、結局、大人しく見るだけでなかったのは先程起こった出来事の通りである。



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