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蝶になった夢を見るのは私か それとも 蝶の夢の中にいるのが私なのか 夢はうつつ うつつは夢


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薄暗がりの部屋の中。

蝋燭の灯りだけが、時折芯の爆ぜる音を放ちながらゆらゆらと揺らめいて周囲に蠢く光の陰影を落としていた。
蝋燭の正面には、年若い女の顔があった。魔女マティロウサの養い子、ウィルヴァンナである。
ウィルヴァンナは目を閉じ、少し眉根をよせて、何事かを一心に念じていた。

「力を抜いて……」 

ウィルヴァンナの傍らから、しわがれた老女の声がした。その声を耳にして、ウィルヴァンナはかすかに顎をあげ、息を吸い込んだ。その拍子に蝋燭の火がかすかに揺らぐ。

「少しずつ……集中するんだよ」 

声に導かれるようにウィルヴァンナは自らの内に先程から感じている魔力の高ぶりを懸命に支配しようとしていた。その顔には戸惑うような、苦しむような表情が浮かび、額には汗が浮かんでいる。

突然、部屋の中に風が起こり、ウィルヴァンナの周囲を取り巻くようにぐるぐると旋回し始めた。机の上に積んであった羊皮紙が宙を舞い、魔道書の皮の表紙が何度も開いたり閉じたりして騒がしい音を立てる。同じように、壁際の戸棚が誰も触れていないのにバタンと開き、中にしまってある干した薬草が飛び出して床に落ちる。
蝋燭の火だけが突風に煽られながらも不思議と消えず、静かに揺らめいている。

「堪えるんだよ、ウィルヴァンナ、堪えて」 

老女の声が叱るような響きを含んでウィルヴァンナの耳を打つ。だが、ウィルヴァンナは魔力を抑えるのに精一杯で、自分の周囲で起こっていることに気を回す余裕はなかった。
何かしら大きな衝動がウィルヴァンナの中を駆け巡り、それは手負いの獣のようにウィルヴァンナの身体と意識を苛んでいた。

「……ほい」 

と、突然、別の声が聞こえ、ウィルヴァンナは自分の額に何かが軽く触れたのを感じた。
途端に、ウィルヴァンナの中をさまよっていた力は出口を見出したかのように額に集中する。何かが弾けたようにウィルヴァンナは目を見開いた。
その瞬間、ウィルヴァンナの姿はかき消すようにいなくなった。

部屋の中で暴れていた風は同時にぴたりと止まり、翻弄されていた数枚の羊皮紙がゆっくりと机の上に落ちてくる。

「シヴィ、余計なことを」 

老いた声の主は、忌々しげに呟くと、急いで家の外へと向かった。
家の前では、夜の暗闇の中、先程まで部屋の中にいた筈のウィルヴァンナが、路上にぼんやりと座り込んでいた。その姿を目にして、魔女マティロウサは安堵のため息をついた。同時に背後を振り返ると、机の上にちんまりと座ってそ知らぬ方を向いている小さな人影を睨みつけた。 

「シヴィ」 

「そんな怖い顔せんでも」  机の上の人物、老シヴィは畏れ入ったように魔女の視線を避けた。
「ちょっと手伝っただけなのに」
 
「やり方が手荒いんだよ、あんたは」



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