「ところで」 サフィラは話を変えた。
「フィランデからの使者は式までヴェサニールに滞在するのか?」
「そう聞いておりますわ」と、トリビアが答えた。
「タウケーン王子の先触れとしてのお役目ですから、このまま王子をお迎えになるということです」
「ふうん。ご苦労なことだな」
「お使者様といえば、素敵な方でしたわねえ。整った甘いお顔立ちで」
リヴィールがうっとりとした表情を見せる。
「中性的なサフィラ様とはまた違った魅力を感じましたわ」
「あら、それは私も思ってよ、リヴィール」負けじとトリビアが言い返す。
「お背も高くてすらりとした体格で……城の女性は皆見とれていましたわよ。タウケーン王子もたいそう美男子と聞いておりますし、フィランデにはそういう方が多いんでしょうか」
「そんな男前だったか? にやにやして軽そうなヤツに見えたが」
「まあ、サフィラ様ったら、あんなに間近でお顔をごらんになったのに、何ともお思いになりませんでしたの?」
「丸暗記した台詞を口にするのが精一杯で、まったくお思いにならなかったぞ」
サフィラの答えに、意味ありげに顔を見合わせた双子が、ふう、とため息をつく。
未成熟な体格と同様に、精神面においてもまた、サフィラは同じ年頃の娘達に比べてかなり歩調が遅かった。15といえば、そろそろ異性への興味に目覚めてもいい頃合なのに、サフィラの関心はひたすら剣術と魔道に注がれるのみで、それ以外に向けられる対象がないというのも二人の侍女にとっては何とも歯がゆい状態であった。
もっとも、これについてはサフィラの性分うんぬんだけを責めるわけにはいかない。
王族というやんごとない立場にある以上、気安く男性と接する機会がないのは仕方がない話だ。しかし、城内にも年頃の男性は多くいる。容姿の良し悪しは別として。
それらの者に、もう少し世俗的な関心を抱いても、それは自然なことではないのか、というのが二人の思いである。
やんごとない身分といいつつ、その割には、しょっちゅう城を抜け出して街へ降りているサフィラだが、それでも今のところサフィラにもっとも近しい異性といえば、同じ魔道騎士の友人であるサリナスぐらいしか見当たらない。
では、サリナスはどうだろうか。
いつだったか、トリビアとリヴィールはサフィラの留守に繕い物をしながら、自分達の女主人の唯一親しい若き魔道騎士について、憶測の波を広げたことがあった。
「サリナス様は街でも評判の方よ。艶やかな黒髪に端正なお顔立ち。それに、あの青い瞳。あの方に焦がれている娘達がどれだけいるか」
「そうよねえ」妹の言葉に、トリビアは針を持つ手を止めた。
「ご気性も穏やかだし、お優しいし。そういえばリヴィール、あなたもサリナス様のことを少しは気にかけていたんじゃなくて?」
「それはお姉様も同じでしょ」リーヴィアが言い返す。
どうやらこの双子の姉妹もサリナスを憎からず思っている娘達の中に含まれているらしい。
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