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蝶になった夢を見るのは私か それとも 蝶の夢の中にいるのが私なのか 夢はうつつ うつつは夢


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使者が語った事実、つまりタウケーン王子が使者の一人に身をやつして既にヴェサニール城を訪れていたという事実に対して、王は至極当然の反応を示した。
それは、数日前にタウケーン本人からサフィラが同じ事を聞かされたときに見せた反応とまったく同じもので、要するに呆れ果ててものが言えない、という類であった。 

一体何故そんなことを、いえ私どもも最初はお止めしたのですが、酔狂にも程があるではないか一国の王子ともあろう者が、お言葉はごもっともですがそういうご気性の方なのです、と王と使者の間でしばらく言葉の応酬が続いた後、ようやく両者とも少しだけ落ち着きを取り戻し、現実を受け入れる余裕が生まれたようだった。

「では、使者殿に尋ねるが」 王は疲れた身体を再び玉座に戻して、改めて使者に目を向けた。
「サフィラの手紙にある同行者とはタウケーン王子であるとお思いかな? 二人揃って姿を消した以上、そう考えるのがもっとも自然だとわしには思えるが」 

「いや、いくら王子でもそこまでは……」

使者は恐れ入るように答えた。しかし答えながらも、その様子はどこか自信なさげである。あのタウケーン王子なら、それは非常にあり得る、という思いを胸中から拭い去ることができないためである。 

「果たして、そうであろうかのう」

使者の返答に、王も不審の表情をありありと浮かべた。使者の言葉など頭から信じていない様子である。正直、立て続けにいろいろなことが起こったために、王も半ば投げやりな気分になっている感は否めない。サフィラが逃げ出してしまった今となっては、誰と一緒にいようが、何処に行こうが、もう後の祭りなのだから。 

そして、使者はヴェサニール王に負けず劣らず頭を痛めることになった。 

厄介なことを仕出かしてくださった。
もしもサフィラ王女をかどわかしたのが本当に王子であれば、本国の国王に何と申し開きをしよう。いや、それよりも、目の前にいるヴェサニール王への言い訳のほうが、より差し迫った問題である。 

使者は、王子がフィランデでいつもそうであったように、今回も、夜通し城下の酒場で飲み明かして、そのまま眠るか何かしてしまったために今ここに姿が見えないのだ、と思い込もうとしたが、身の回りの物も消えているという事実が、その想像を消し止める。

王と使者とが互いに相手の反応を窺い合う中、それまで一言も発さずに王の隣の玉座に座っていた王妃が、突然思いついたように言った。 

「あなた、これはもしかしたら、世に言う 『駆け落ち』 というものではないかしら?」 

「か、駆け落ち?」 王妃の突拍子も無い言葉に王は驚いた。

「そうですわ。サフィラと王子は、一目見たときから、きっと互いに魅かれあったのですわ。それで、手に手を取り合って……」 

本気で言っている、というよりは、多分に当てずっぽう的な発言である。
しかし、王妃自身も王に劣らず頭の中が多少混乱しているため、みずからの言葉の辻褄が合っていないことには気づかず、そうであったら気が楽なのだが、という類の思い付きであった。
むしろ、みずからのロマンスめいた発想が何となく気に入ったらしく、少しばかり夢見るような表情さえを浮かべている。

「王妃よ、それは非常に無理がある」 しかし、王はあっさりと水を差した。
「よく考えるがよい。そもそも 『駆け落ち』 とは、想い合うことを反対された男女が行なうものだ。サフィラと王子の場合はどうだ? 誰一人反対なぞしておらん。むしろ皆が諸手を挙げて大賛成しておるのだぞ」

唯一賛成していなかったのは、結婚する当人すなわちサフィラである。
しかし、その点を王はあえて無視した。 

「それなのに、結婚式を目前に控えた花嫁と花婿が何故手に手を取って国から逃げ出さなくてはならないのか。それは有り得ぬ話じゃ」 

「それは、そうでしょうけれど……」
王妃は否応なく現実を突きつけられ、目に見えて消沈した。どうやら、王妃なりに良い考えだと思っていたようだ。 

やれやれ、と王は心の中でため息をついた。
普段はしっかり者の王妃だが、ときどき乙女のように甘い無邪気さを発することがあるのだ。いつもならば、それも愛すべき王妃の資質として認めることにやぶさかではないが、今は違う。

それにしても、と王は重い額を手で支えながら考えた。 

王女がいない。
王子がいない。
結婚式もない。 

この不始末は、どのような形で解決を見るのだろうか。
タウケーンがサフィラを連れ出した、という言いがかりでフィランデの使者を叱咤してはみたものの、実のところ、それは事実ではないだろうと、王はうすうす勘付いていた。
十中八九、サフィラは結婚を疎んじて逃げ出したのだ。
最初から嫌がっていたではないか。認めたくはないが、それしか考えられない。 

分からないのは、タウケーン王子だった。
王子がサフィラの同行者であるかどうかはともかく、何故、彼自身も姿をくらます必要がある?
酔狂ゆえの行動にしても、意味不明である。
王は、再度ため息をついた。



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