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蝶になった夢を見るのは私か それとも 蝶の夢の中にいるのが私なのか 夢はうつつ うつつは夢


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タリスが懸念するまでもなく、王の胸中は不埒な一人娘の行動の後始末をどうするか、という一点で占められていた。

その頃には、詮議の舞台は王の間から執務室に移り、部屋の中央に設えられた石造りの大きな机を囲むようにして王と重臣達が座を占めていた。机の上には、サフィラの手紙が無造作に投げ出されている。
そして重臣達とは別に、壁際に置かれた小さな椅子にはトリビアとリヴィールが居心地悪そうに腰掛けていた。本来ならばこのような場に同席することなどできない二人だったが、サフィラ付きの侍女という立場から、否応なく呼び出されたのだ。

そして、たった今トリビアが今朝の状況を一通り説明し終えたところであった。
つまり、サフィラが部屋にいないことに気づいてから、その残した手紙を見つけるまでのことである。それに対して、今は重臣達からさまざまな意見が挙げられ、室内には活発ながらも不穏な空気が漂っていた。

他の者達の声に紛れて、二人の侍女は声をひそめ、しかしいつものように忙しなく口を動かした。

「それにしても」 トリビアが少しがっかりしたように言った。
「何も私達にまで何も言わずに出て行くことはないでしょうに、サフィラ様ったら」

「そうよね、お姉様」 妹が相槌を打つ。
「これまではいろいろなことを私達に打ち明けてくださっていたのに。そりゃあ私達はただの侍女だけど、サフィラ様がお生まれになったときからお側にいるのに、何だかショックだわ」

「たぶん、サフィラ様のことだから、私達が余計な心配をしないように、と気遣ってくださったから黙っていたんでしょうけど……」

トリビアはそう言いながらため息をついたが、実のところ、サフィラが二人にすら言わなかったのは、気を遣ったからではなく、単に二人のお喋り好きによって秘密の計画が漏れるのを恐れたからである。もちろん、二人はそれを知らない。

「でも、私達も少し迂闊すぎたわね、リーヴィア。サフィラ様なら、このくらい平気でやっておしまいになるということをすっかり忘れていたわ」

「まったくですわ、お姉様。今思えば、ここ数日サフィラ様のご様子がどうも神妙でいらっしゃったのも、すべて今回の脱走を悟られないためだったのね」

「サフィラ様らしいというか、何と言うか……。あなた、サフィラ様の手紙を見て?」

「見ましたわ。王様とお后様に謝罪しているようで、実は恨み言と脅しも忘れずに書き足しておく、というところが何ともサフィラ様らしい文章でしたこと。さすがですわね」

「感心してどうするの」 姉が妹をたしなめる。
「それよりも、気になるのはサフィラ様の同行者のことよ。一体、誰と一緒に行かれたのかしら?」

そこまで話して、二人は自分達の声がいつの間にかひそひそ話とは程遠いほど声高になっていることに気づいた。重臣達の戒めるような視線が自分達に注がれているのを知り、思わず二人は口を閉ざして下を向いた。


「……それで?」 しばしの沈黙の後、王は不機嫌そうに誰にともなく尋ねた。
「サフィラの手紙にある『旅馴れた者』とは誰のことじゃ?」

つい今しがたトリビアが疑問に思ったことと同じ趣旨のその言葉に、問われて答えられる者はその場には一人もおらず、ただ互いに顔を見合わせるだけである。
もちろん、二人の侍女も知る由もない。
無言が王の不興をますます募らせることを懸念した家臣の一人が、勇気を出して言った。

「王、それは、サフィラ様がいつも懇意にしていた城下の魔道騎士ではありませんか?」

サリナスのことである。二人の侍女は、なるほど、と言わんばかりに顔を見合わせた。
しかし、王が不機嫌そうにその言葉を否定する。

「その点については、既に城下に早馬を走らせておる」

実は王自身、誰よりも真っ先にサリナスのことを思い浮かべたのである。ついでに、魔女のことも。王にとっては天敵に近い二人である。サフィラが王にとって良からぬ事を行うときは、必ず魔道が関わっているからだ。
しかし、今回は王の予測は外れたようで、城の衛士が若き魔道騎士と老いた魔女の住処を訪れたときには二人とも家にいたし、サフィラの消息を知る手掛かりとなるようなものもなかった。
もっとも、サリナスはともかく、マティロウサは不機嫌を露わにして衛士を睨みつけたので、恐れをなした衛士は大して家の中を調べもせずに城へ急ぎ戻ったのだが。

しかし、二人でないとなると、王には誰がサフィラの同行者なのか、皆目検討がつかなかった。
ヴェサニールを訪れた他国からの旅人ではないか、と進言する者もいて、さっそく国の領内にある宿屋へと衛士が飛んだが、ここ数日中に国を出た者は誰もいない、という知らせを空しく持ち帰っただけであった。



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