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蝶になった夢を見るのは私か それとも 蝶の夢の中にいるのが私なのか 夢はうつつ うつつは夢


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翌日、サリナスは老人の家を初めて訪れた。
魔道を教えてくれ、と突然現れた少年に、老人はしばし目を見開きサリナスを見つめていたが、やがて穏やかな声で、入りなさい、とだけ言ってサリナスを迎え入れた。

老人はまずサリナスに幾つか質問をし、少年の利発さを推し量った。そして、剣術だけでなく魔道においても才を開く可能性があることを見て取ると、自らが持てるすべての知識や術を引き継ぐ相手に選んだ。

しばらくすると二人は互いに 「先生」 「ヒヨッコ」 と呼び合うようになった。
この頃になるとサリナスの父は息子が完全に親離れしてしまったことを悟った。
さらに、サーレスまでもが老人の元に通い出したと母親に聞かされ、もともと寡黙がちではあったが更に口数が少なくなった。


一度足を踏み入れてみれば、魔道の世界はサリナスにとってとても興味深いものに思えた。

あるときサリナスは老人に尋ねた。

「先生、『魔法』 と 『魔道』 は違うものなんですか?」

違う、と老人は即答した。

「『魔法』 は古の神との契約によって使うことができる魔の技だ。生来その力を持つ魔法使いや魔女にしか使えない哲理でもある。使う者の魔力の大きさによっては森羅万象の根源にまで影響を与えることができる」

少年にとってはいささか高度な説明にサリナスの顔は少しばかり困惑し、それに気づいた老人は、ヒヨッコのお前には少し難しかったかな、と顎をかいた。

「それに対して 『魔道』 とは、人間が魔の理(ことわり)を学び、習得し、実践する力。いわば人智の技だ。この力は人の世の理の中でしか働かない。だから、サリナス、人間である私やお前には 『魔道』 は使えるが 『魔法』 は使えないのだよ」

「では、魔法使いや魔女は人間ではないのですか?」

「彼らは人間から生まれはするものの、人間とはまったく異なる理屈で生きておるのだよ。我々のように魔道を行うたびに呪文を唱える必要もない。彼ら自身が 『魔』 の発現者だからだ」


「時に、ヒヨッコよ。魔道で使われる呪文は大抵の場合において簡潔で短い。何故かは知っておるな」

「はい、ええと」 突然の師からの質問に、サリナスは慎重に答えを探す。
「魔道はもともと人間が戦闘時の補助力として使い出したものであり、長い詠唱を必要とする呪文はその目的にそぐわないため、時代とともにどんどん簡略化されていった……からです」

「ふむ。古文書を丸暗記したような答えだが、まあ良しとしよう」

サリナスはほっと胸をなでおろした。

「今お前が言ったように、魔道を作り出したのは人間。呪文を生み出したのも人間。逆に言えば、人間にはそれ以上の力を持つことは不可能なのだ。であるからして、呪文なしの 『魔法』 を使える人間がもしもいたとしたら」
まあ、おらぬとは思うが、と老人は前置きした。
「それはもう人間ではない」

サリナスは少し考え、再び問うた。

「太古の時代には齢を重ねた魔物達の中にも魔法を使えるものがいた、と古文書で読みましたが、あれは本当ですか」

勉強熱心なヒヨッコだな、と老人は笑った。

「だが、サリナスよ。今の世には魔物などどこにもいないし、太古の物語が事実かどうか証明する術もないのだよ。いたかもしれんし、いなかったかもしれん」


また、あるときサリナスはこうも尋ねた。

「先生、『魔道』って何なんでしょう?」

この単純にして奥が深い質問には、さすがの老人もしばし考え、慎重に言葉を選んだ。

「そうさなあ。強いていえば 『変化をもたらす力』 というところかな」

「変化をもたらす力?」 サリナスは老人の言葉を繰り返した。

「そうだ。たとえば」 老人は辺りを見回して一枚の紙を手に取った。
「お前にも今はできるだろうが、魔道を使ってこの紙を隣の部屋に移動させたとする」

こんなふうに、と老人が短い呪文を唱えると、紙は老人の手の上で一瞬にして消えた。

「消えたように見えるが、そうではない。これは、移動という 『変化』 に過ぎない」

「はい」

「そして、たとえば道具を使わずに火や水を起こすとき、我々は空気中の熱や微細な水の粒を魔道によって凝縮し、それが火や水となる。この凝縮も 『変化』 の一つ」

サリナスは老人の言葉を努めて理解しようと頷き、老人はそれを満足げに見つめた。

「つまり、魔道は形や状態、位置を変える術、あらゆる 『変化』 を司る理である、というのが永年の経験から私が得た答えだ。だが」 老人は付け足した。
「石を砕いて粉々の状態にすることはできても、それを砂金に変えることはできない。それは石が持つ本質から大きく外れることであり、『変化』 ではなく 『転化』 と呼ばれる力だ。ヒヨッコだからといって、お前を本当の鳥に変えることも勿論できない。魔道による 『変化』 は、物事の本質を外れない範疇内での 『変化』 なのだよ」

「転化……」

それはサリナスが初めて聞く言葉だった。

「うむ」 老人は水を一口飲んで喉を潤す。
「完全なる 『転化』、そして完全なる 『消滅』 と 『生成』、これらはすべて 『魔法』 の領域だ。たとえば火を起こすにしても、我々は大気に 『変化』 を与えて火を生み出すが、魔法使いはまったくの無の状態から火を 『生成』 するのだ」

こんなふうにポンとな、と老人は手をぱっと開いてみせた。

実際のところ、魔道に入門したばかりのサリナスにとって、老人の言葉をすべて理解するのは困難であった。分かったような分からないような表情を見せるサリナスの頭を軽く叩き、老人は言った。

「まあ、焦ることはない。身をもって少しずつ覚えていけばよい。追い追いにな」

老人の言葉通り、サリナスは少しずつ、だが確実に、砂が水を吸うのと同じ早さで老人の教えを学んでいった。



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