老人はサリナスの成長を喜ぶ一方で、弟のサーレスについては兄ほど才がないことを知っていた。いや、それ以前に、魔道に対する興味や熱意そのものが欠けていることも分かっていた。
まだ幼いゆえにサーレス自身は気づいていないが、その心の中には兄を慕う気持ちと、その兄に対する幼稚な対抗意識が見え隠れしている。
兄が剣を学べばそれに従い、兄が魔道に魅かれればそれに倣う。
どちらにしても、兄が歩んでいる道筋を何歩か遅れてたどっているだけにすぎない。
どちらも愛すべき弟子ではあるが、兄弟間の複雑な心理を諭すには二人ともまだ幼すぎる、とため息をつくしかない老人であった。
あるとき、老人の家で古文書の整理をしていたサリナスに老人が言った。
「お前ももう15歳になるな」
「はい」
ふむ、と老人は少し何かを考えるように黙り込んだ。そして再び口を開く。
「魔道騎士の試問を受けられるのは15歳からだ。今年は置くとしても、来年あたりにはお前も受けてみればいいかもしれん」
「でも、先生」 サリナスは老人の言葉に手を止めた。
「魔道を習い始めてまだ二年も経ちません。来年なんて早すぎます。受かるわけないですよ」
「そうかな」
老人はそれがサリナスの生真面目さからくる言葉であることを見抜いていた。
老人自身も最初はそこまで期待していなかったことだが、この二年の間でサリナスの魔道の才能が恐ろしいくらいに伸びていた。
「もともと才があれば、たった一年もかからずに芽吹くこともある。なあに、一度目の試問は運試しみたいなものじゃ」
老人は気安げに言った。
「それに、授け名の魔法使いや魔女に一度会ってみるのも、お前にとっては一つの経験じゃよ」
「そうでしょうか」 サリナスはまだ疑わしげだった。そして、ふと思いついて尋ねた。
「先生は一回で受かったんですか?」
老人は顔をしかめて見せた。
「師匠に恥をかかせるような質問をするな」
結局、サリナスは魔道騎士の試問を受けることを父に告げた。
いつものように父は黙っていたが、
「魔道騎士になって何をするつもりだ」と、数年前と同じような質問をした。
だが、あの幼かったときと違い、サリナスの答えは淀みなかった。
「人の役に立ちたい」
父親は再び黙ったが、やがて小さく、そうか、と呟いただけだった。
翌年、老人の言葉に従ってサリナスはヴェサニールのマティロウサの元に赴いた。
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