女が屋敷の中に姿を消すのを見届けた後、仁雲が阿南に謝った。
「すいません、阿南さん。今の人の名前、思い出せなくて……」
仁雲の謝罪に対して、阿南の反応は特にない。
人名の覚えが悪いのは、仁雲にとって今に始まったことではない。
「えーっと、ミス……フウノでしたっけ? なんか……胡乱な感じの人ですね」
「お前もそう思ったか」
いつもなら阿南は自分の相棒の観察力や直感力をあまり当てにはしていなかったが、
この時ばかりは仁雲の言葉に賛成した。
「確かに、この家に群がる高価な宝石や衣装の話が得意な人種じゃなさそうだ。
ちょっと堅気ばなれした雰囲気だった」
決して上流階級ではない。
かと言って、強請り、たかりなどを生業とするような輩にも見えない。
阿南を見返した女の真っ直ぐな瞳には、凶悪や剣呑の欠片は見当たらなかった。
仁雲が相槌を打つ。
「阿南さんもそう思いましたか?……どういう女ですかねぇ」
「分からん。前もってミヨシの爺さんに聞いてなけりゃ、
門をくぐる前に追い返したかもしれんな」
阿南はあながち冗談でもなさそうな口振りで答えた。
「でも、美人ではありましたね。ちょっとキツイ感じですけど」
「まあ…な」
仁雲の言葉に、阿南は曖昧に賛成した。
確かに美形といっても良い顔立ちだった。
そこらを歩いている女達を10人適当に集めて、
その中にいたなら、まず最初に目を引く女に違いない。
だが、阿南の目を捉えたのは、それだけの理由ではない。
美醜では片付けられない、独特の雰囲気が女を取り巻いていたせいだ。
「お前、ああいうのが好みなのか?」
「好みというか、自分は美人は皆好きです」
「……」
阿南は小さくため息をついた。
仁雲の女好きは今に始まったことではない。
元・軍人にして元・マセナリィであった技量はそこそこあるにもかかわらず、
女に対してかなり無防備だ。
付け加えれば、無節操なところもある。それがこの男の欠点だと阿南は思っている。
何しろ、雇い主である笥村聖の若い妻にまで好奇を抱いているのには困り者だ。
「……だが、仁雲。美人といっても、今の女みたいなタイプはちょっとヤバいぞ」
「ヤバい? どこがですか?」
「勘だ」
そうとしか言いようがない阿南である。
女と視線が合った時に感じた奇妙な感覚は、ある種の 「ヤバさ」 を伝えていた。
しかし仁雲は、
「そうですかねえ?」 と、阿南に目を向ける。
「でも、自分、結構ヤバイ女って好きですけど。 何か、こう、緊張感があるというか……」
「女の趣味にケチをつけるつもりはないがな。
お前の為に忠告しておくと、あの手の女は止めといた方が無難だぞ。
お前は結構根が単純だから、いいようにあしらわれるだけだ」
「そんなことありませんよ。 一度くらいなら、ああいう女にあしらわれてみたい気もします」
「お前はいつかきっと女で身を滅ぼすな」
女に入れ込むタイプは、これだから。半ば諦めたように阿南が言う。
→ ACT 3-8 へ
「すいません、阿南さん。今の人の名前、思い出せなくて……」
仁雲の謝罪に対して、阿南の反応は特にない。
人名の覚えが悪いのは、仁雲にとって今に始まったことではない。
「えーっと、ミス……フウノでしたっけ? なんか……胡乱な感じの人ですね」
「お前もそう思ったか」
いつもなら阿南は自分の相棒の観察力や直感力をあまり当てにはしていなかったが、
この時ばかりは仁雲の言葉に賛成した。
「確かに、この家に群がる高価な宝石や衣装の話が得意な人種じゃなさそうだ。
ちょっと堅気ばなれした雰囲気だった」
決して上流階級ではない。
かと言って、強請り、たかりなどを生業とするような輩にも見えない。
阿南を見返した女の真っ直ぐな瞳には、凶悪や剣呑の欠片は見当たらなかった。
仁雲が相槌を打つ。
「阿南さんもそう思いましたか?……どういう女ですかねぇ」
「分からん。前もってミヨシの爺さんに聞いてなけりゃ、
門をくぐる前に追い返したかもしれんな」
阿南はあながち冗談でもなさそうな口振りで答えた。
「でも、美人ではありましたね。ちょっとキツイ感じですけど」
「まあ…な」
仁雲の言葉に、阿南は曖昧に賛成した。
確かに美形といっても良い顔立ちだった。
そこらを歩いている女達を10人適当に集めて、
その中にいたなら、まず最初に目を引く女に違いない。
だが、阿南の目を捉えたのは、それだけの理由ではない。
美醜では片付けられない、独特の雰囲気が女を取り巻いていたせいだ。
「お前、ああいうのが好みなのか?」
「好みというか、自分は美人は皆好きです」
「……」
阿南は小さくため息をついた。
仁雲の女好きは今に始まったことではない。
元・軍人にして元・マセナリィであった技量はそこそこあるにもかかわらず、
女に対してかなり無防備だ。
付け加えれば、無節操なところもある。それがこの男の欠点だと阿南は思っている。
何しろ、雇い主である笥村聖の若い妻にまで好奇を抱いているのには困り者だ。
「……だが、仁雲。美人といっても、今の女みたいなタイプはちょっとヤバいぞ」
「ヤバい? どこがですか?」
「勘だ」
そうとしか言いようがない阿南である。
女と視線が合った時に感じた奇妙な感覚は、ある種の 「ヤバさ」 を伝えていた。
しかし仁雲は、
「そうですかねえ?」 と、阿南に目を向ける。
「でも、自分、結構ヤバイ女って好きですけど。 何か、こう、緊張感があるというか……」
「女の趣味にケチをつけるつもりはないがな。
お前の為に忠告しておくと、あの手の女は止めといた方が無難だぞ。
お前は結構根が単純だから、いいようにあしらわれるだけだ」
「そんなことありませんよ。 一度くらいなら、ああいう女にあしらわれてみたい気もします」
「お前はいつかきっと女で身を滅ぼすな」
女に入れ込むタイプは、これだから。半ば諦めたように阿南が言う。
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