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蝶になった夢を見るのは私か それとも 蝶の夢の中にいるのが私なのか 夢はうつつ うつつは夢


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阿南が時折見せる倦怠の表情を何とか解きほぐそうと常々努力しているのが、
笥村邸の前で阿南の傍らの位置を占めている部下の仁雲(ニグモ) だった。

『考え過ぎない方がいいですよ、阿南さん』

今ではこの台詞は仁雲の口癖になっている。
事あるごとに仁雲はこういって阿南をなだめるのだ。

褐色の肌とやや明るい茶色の髪を持つ仁雲は、
ニホン名ながら南国人種の血を引く生まれだった。
血筋のせいか、性格は阿南よりも遥かに陽気な方である。
年は30前だが、子供のような表情のせいで実際よりも若く見える。

強面で同僚にも避けられがちな阿南と、それに反して愛想がよく人好きのする仁雲は、
正反対の性格でありながら何故か馬が合っていた。


仁雲はかつて某国の軍隊で職業軍人として真っ当に勤務していた。

しかし、クーデターによる内乱が起こったことで、硝煙の道に進まざるを得なかった。
数年後、呆気なく内乱は終結し、
呆気なく軍は解体されて、仁雲は呆気ないほど簡単に無職の身になった。

『その日のメシにありつくこともできなくなった訳です』

仁雲は笑いながら阿南に言ったものだ。

結局、仁雲はマセナリィになっていろいろな国を渡った。

その後、何度目かに体験した内乱が終結を見る頃には、
硝煙の匂いに辟易していた仁雲は
稼いだ報酬を注ぎ込んで、ニホンへのパスポートを手に入れたのだ。

それまでの名前を捨て、ニホンに帰化して「ニグモ」を名乗り、
ともかく、数ヵ月後には笥村邸の警護役の一人に収まった。
そんな自らの境遇に充分に満足していることは、本人の言葉通りである。


『自分はラッキーです』

仁雲は笑顔で言った。

泥や血の染みとは無縁のスーツ姿で、食うに困ることもない。
しかも、自分の経歴を生かした職業でもある。
その上、雇い主は政財界に名を轟かせる笥村家なのである。

これは、この上なくラッキーなことではないか?
仁雲の表情は常にそう語っていた。

阿南自身が個人的に抱えている胸中の葛藤、
つまり 『争乱バカ』 である自分を捨てきれないでいるのに対して、
仁雲は明らかに阿南と意見を異にしていた。

仁雲は、現在自分が置かれている状況を幸運であると公言して憚らない。
常に無常観に苛まれている阿南にとっては、少なからず複雑な心境を抱かせる存在であった。



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