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蝶になった夢を見るのは私か それとも 蝶の夢の中にいるのが私なのか 夢はうつつ うつつは夢


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距離が縮まるにつれて、2人の目に女の外見が明確な形をとって映り込んでくる。

「阿南さん、奥様の友人というには、あの人何だか……」

仁雲は言葉を切ったが、その言わんとするところは阿南も理解した。

女が無造作に羽織っている生成りのコートは遠目にも色あせて見える。
それは、まるで長年着古した印象を2人に与えた。
対照的に黒いTシャツと同じく黒い皮の光沢を持つパンツ。
女に似合っていないわけではないが、
個性や好みという点を無視して女のいでたちを客観的に見てみれば
それはダウンエリアの住人以外の何者にも見えなかった。

仕事柄、上流階級と呼ばれる人種を嫌と言うほど見慣れている2人である。
その2人から見て、女は笥村の客人としてはおよそ似つかわしくない胡散臭さを引きずっていた。

しかし逆に、そのことが阿南の興味を引いた。

身なりのみすぼらしさに反して、女はなかなか目を引く容貌をしていた。

まっすぐな黒髪が、歩くたびに肩の辺りで波打っている。
切れ長の瞳は髪の色と同じく黒く、思いがけず白い肌を際立たせていた。
まるで忍び足で近付く猫のようだ、と阿南は思った。

恐らく単一のニホン人種に違いない。今時珍しい、と阿南が思った瞬間。

女と阿南の目が合った。

女の目を見た瞬間、奇妙な感覚が阿南を捕らえた。
アイスブルーの瞳がすっと細くなる。

女は驚くほどまっすぐな瞳で阿南を見返した。
鋭く、切れ味のよい黒曜石に似た瞳だ。
観察とも値踏みともいえる視線を、2人に、とりわけ阿南の方へ向けていた。

何か引っかかる。
阿南は女が醸し出している雰囲気が気にかかった。
何だろう。

声をかければ届く位置まで女が近づいた時、仁雲が一歩前に出て、
失礼に当たらぬ程度に女の前に立ちはだかる。

「失礼ですが、ミス、あー……」

流暢なニホン語ではあったが、
それ以前に、客人の名前を未だ思い出せない仁雲は、つい口ごもった。
仁雲の背後から、阿南が慇懃に言葉を発する。こちらもニホン語だ。

「ミス・フウノでいらっしゃいますか?」

問われた女は一瞬複雑そうな表情を見せたが、

「……そうだけど」

と簡単に答えた。
囁くような、低い声が阿南の耳を打つ。

「そちらはボディガードってやつかな?」

問いかけとも独り言とも取れる女の言葉の中には、
やや小馬鹿にするような微笑のトーンが含まれていた。
阿南はそれを無視して型通りの言葉を返す。

「奥様から伺っております。どうぞ、お通り下さい」

女は何か言いたげな視線で阿南と仁雲を見比べていたが、
やがてついと目をそらして笥村邸の玄関口へと向かう。
呼び出し口で名を告げ、現われた使用人に導かれて、
女はそのままドアの内側に吸い込まれていった。



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