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蝶になった夢を見るのは私か それとも 蝶の夢の中にいるのが私なのか 夢はうつつ うつつは夢


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互いに、互いから解放された女とタカギ。
ようやく2つの身体が離れる。
女は肩の凝りをほぐすような仕草で、残る男達の動向を窺った。
平静に見えるが、その視線は油断ない。

「それにしても驚きました」 あながち、出任せでもない口調で男B は女を顧みた。
「見かけによらず、こういう事態に手馴れているようですね。
身のこなしが素早いし、腹を立てているように見えて、動きは冷静。
今更この場で、あなたが誰か、と問いただす気にはなれませんが、
個人的には非常に興味深い方だ」

「今度はナンパかい」 ぼそりと女が呟く。

「正直な感想ですよ。
それに……奇妙な、と言っては失礼ですが、何と言うか、変わった技をお使いになるようで」

「ただの護身術」

「そうですか? しかし、素人の手習いにしては、年季が入っているように感じましたが」

「そんなに気になるなら」 女は、ずいっと男B に近付いた。
「自分で試してみるという手もあるけれど、どうする?」

「遠慮します」 男B は即答した。
「いえね、貴女とタカギを見ていると、つい、
子供の頃に TV でやっていたヒーロードラマを思い出しましたよ。
か弱い主人公が、実は超能力を使う正義の味方で、誰も正体を知らない。
そして、悪い人間達を叩きのめす。
何というタイトルだったか、忘れてしまいましたが」

世間話でもするかのような男B の言葉に、女は興味がなさそうだ。
ただ黙っている。

「今考えると、バカバカしい物語ではありましたが、あの時は胸を躍らせて見入っていたもんです。
でも、その時、一緒に見ていた祖母が……ああ、私、両親がいないので
祖母に育てられたようなものなんですが、その祖母がですね、
実際に、常人以上の力を持つ人間を目の当たりにすると、
人の心に浮かぶのは、賞賛とか憧れとかでは決してなく、
異端な者に対する恐れや嫌悪、そういった負の感情だけだ、なんて言ってたものですが……」

男B は、ふうとため息をついた。

「コドモ心には、祖母の言っている意味が判りませんでしたが、
ようやく今、理解したような気がしますよ」

「なかなか深いバーサンだな」 女の無感動な返事。
「でも、こっちはそんなノスタルジックな思い出話には興味がないよ。
その異端なモノってのが、アタシだ、と?」

「滅相もない」

単に昔のことを思い出しただけなのだが、
自分でも少しばかり饒舌すぎる気がして、男は短く答えた。

「それで? この後、どうするの」
女は小さく欠伸をした。明らかにこの状況に飽きている様子だ。
「ツマンナイ話を聞かせられるくらいなら、もう用がないんだろう?
そろそろ帰りたいんだけど。うち、門限が厳しいから」

「はあ、それはまあ」

言葉を濁しはしたものの、男B としては女の言葉に諸手を挙げて賛成したい気分だった。
自らの仕事をここで放棄することになるが、そんなことはどうでもよかった。

恐らく、手ひどい叱咤を受けるだろうが、女の行動が想定外だった。
それに、今回のことはタカギの短慮さゆえのミスだ。
男B はそう決め付け、自分がそれを制止しなかった、という事実は敢えて無視した。
これまでも同様の失態を何度か演じているタカギである。
そう報告したところで評価は変わらないだろうし、
タカギを疎んじている後の2人も、何も言わず黙っているに違いない。今、そうであるように。

それにしても、と男B は改めて目の前の女を見た。

先程までのキレっぷりはどこへやら、タカギを落とした時点で女は完全に戦意を失ったようで、
詰まらなそうに足元の地面を爪先で掘り返している。
激し易いが、冷め易くもある性分らしい。

興味深い、とは、先程女に言った言葉だが、半分は男B の本心でもあった。

ともあれ、何とかこの場を切り抜けられそうだ、と男B が半ば安堵の息をついた時。

女の背後に倒れていた巨体が、ごそりと動いた。
本人が思いのほか頑丈だったのか、女がある程度手加減したのか、
どうやら、タカギが意識を取り戻したらしい。

男B は内心で舌打ちをした。
長話し過ぎたようだ。
今ここでタカギに復活されると、先刻よりも厄介なことになる。

ここは早急に女に退出してもらおう。

そう考えた男B だが、それを口に出して女に告げようとする前に、目に飛び込んできたのは。

タカギが、何かを握っていた。
黒くて、艶光りのする物体。

拳銃だった。


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