タカギもタカギだ。
女の力など知れたもの。
とっとと跳ね除けてしまえばよいものを。
激しく動くと関節が堪えるのだろう、地味に足掻きながら、
それでも女に押さえ込まれているタカギに向かって、男B の憤りが向けられる。
しかし、女はタカギの背の上で、腕の手首と肘をきっちり掴んでいる。
何でもないように見えるが、女がその気になれば、
逆手に取った腕をさらに引き上げて、今以上の痛みをタカギに与えることも可能だろう。
ヒトの身体の間接は、曲がる方向にしか曲がらない。
その方向とは逆に力をかけられているのだから、
できるだけ無理な力を逃がすためには、大人しく押し付けられているしかないのだ。
タカギもそれを本能的に悟っていた。
自慢の怪力は、すべて物言わぬ地面に向けられている。
それ程までに、女の固めは完璧だった。
しかも、ご丁寧に、横を向いたタカギの顔の首元を、女は膝でさらに押し付けている。
タカギが動ける余地は、ますます少ない。
格闘技の試合であれば、
「ギブ、ギブ!」 と声が上がりそうな、そんな光景。
しかし、タカギは決して自らその言葉を吐くことはないだろう。
シンプルで、流暢で、素早く、しかも効果的な攻撃。
さらに言うなら、
女自身は、まったくと言っていいほど自分の力を使っていない。
攻めてくるタカギの勢いを利用して腕を取り、捻り上げただけだ。
あり得ない。
目の前の情景を、まだ信じることができず、もう一度、男B は自分に言い聞かせた。
もともとタカギは短気で浅墓な男である。
一緒に組むことが多くなった最近になって、ようやく、男B はそのことを知った。
身内とはいえ、その浅墓なる気短かさ故に、扱いに気を使わざるを得ないタイプの人間だった。
そして、今もまた。
ひょっとしたら、最初から腕力に訴える腹づもりでいたのではないか。
そう思わせるほど容易く、あっけない程簡単に相手の思惑に乗り、
タカギはバトル・モードに突入した。
自分の制止など、さらさら聞く気はないようだった。
予想外だったのは、相手の女がタカギの圧に微塵も屈した様子を見せないことだった。
この女が誰なのか、脅しつけてまで調べるような命令は受けていないが、
タカギに怯えた女が素直に答えてくれれば、それはそれでよし、と思わないでもなかった。
しかし、答えるどころか、女は逆ギレ状態だ。
しかもキレながら、どこか余裕のある表情で自分達を見下していた。
挙句の果てに。
タカギは、まだ組み伏せられている。
このザマだ。
弄ばれている。
同僚の無様な姿を見せ付けられ、男B の胸中に歯がゆい思いが沸き起こる。
簡単な仕事だと思っていたのに。
男B はため息をついた。
こんな予定じゃなかった。
タカギは倒れ、女は手を緩めず、残りの2人は見物客に徹している。
今回の仕事の仕切りを任された男B としては、微妙な立場にある。
この場を、どう片付けるべきか。
自称・頭脳労働者は、しばし思案した。
→ ACT 6-21 へ