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蝶になった夢を見るのは私か それとも 蝶の夢の中にいるのが私なのか 夢はうつつ うつつは夢


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老シヴィは、消えた時と同じくらい急にこの部屋に姿を現した。そして、一人ではなかった。
魔法使いの足元に一人の老人が身を横たえていた。
その顔を見た時、サフィラは先程から感じていた曖昧な不安がほんの一瞬、錐のように鋭い光を放って頭の中を通り抜けたのを感じ取り、瞬時に正気に返った。

明らかに狂気の宿った双眸。
絶望にも似た感情がその老人の容貌に纏わり付き、絶え絶えの呼吸は、もはや死が老人を見舞ってそこまで来ていることを意味していた。
サフィラの視線は老人の顔から、そのまま無意識のうちに老人の側に転がる薄汚れた麻袋へと落ちた。なぜか妙にその麻袋が、その中身が気になった。

「これは、もう…」
老人の腕を取って体を調べていたサリナスがマティロウサと老シヴィを見返って言った。
「普通じゃない衰弱ぶりだ。後二日も保つかどうか」

「無理もない。選ばれた者にすら重き定めの品。ましてただの人間が手にすれば………」

「品?」 サリナスは辺りに目をやり、麻袋に気付いた。
「これのことか?」と手を伸ばしかける。

「触っちゃだめだっ」

突然サフィラが叫んだ。反射的にサリナスの手が退かれる。
サフィラは皆の視線を受けてはっとし、少し赤くなると前よりも落ち着いた声で言った。

「触れてはいけないような気がした。いや、触れたくないんだ。……何を言ってるんだろう、私は……」

老シヴィとマティロウサは微かに目を合わせ、またそらした。
マティロウサはサフィラの肩に腕を回して二、三度軽く揺すった。

「お前はもう少し休んでおいで。まだ調子が本当じゃないんだからね」

そして、サリナスの方へ体を向けると、

「さあ、氷魔、このお人を寝台へ運んでおくれ。そっとだよ。あたしは薬を合わせるから。シヴィ、あんたも来とくれよ」

「うむ」

老シヴィが老人の麻袋をすっと手にしてマティロウサの跡に続いた。
サフィラは気付いたが、何も言わなかった。

老いた旅人は死んだように目を閉じ、寝台に横たわっている。
『魔』に取り憑かれた哀れな男の最後の平安がそこにあった。



(第二章・完)



          → 第三章・悪巧み 1 へ

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