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蝶になった夢を見るのは私か それとも 蝶の夢の中にいるのが私なのか 夢はうつつ うつつは夢


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見知らぬ人影がサフィラの目の前に佇んでいた。
灰色の闇の中、その人は目の覚めるような白銀の帷子を全身に纏い、光を通さぬ薄闇の中で自ずと眩く輝きを放っていた。腰に下げた長剣の柄が帷子に触れて金属質の音を立てる。

春の陽射しを映したようなプラチナ・ブロンドに縁取られた顔は気高き女騎士のそれであったが、その比類無き美しさは人間が持ち得る物では決してなく、見る者に鮮烈な印象を与えた。それは凄絶な美貌だった。

女騎士は、人知れぬ森の奥に潜む沼のような深い緑の瞳でじっとサフィラを見た。
厳しい表情と突き刺すような視線がサフィラの心を掻き乱す。

貴女は誰だ?
口に出すよりも早く、サフィラは心の中から問いかけた。
人間か、或は人間ならぬもの、今はすでに絶えた妖精の類いか。

魔物には見えぬ。
魔物にしては瞳が真摯で厳格である。そう、例えて言うなら上つ代の伝説に現れる女神のような。

サフィラの問いが届かなかったのか、それとも聞こえはしたが故意に無視しているのか、女騎士はひたすら矢のような視線をサフィラに注ぎ、やがて、ついと目を逸らした。そして銀に輝くマントを翻してサフィラに背を向けたかと思うと、見る見る内に姿が薄れ、遂には空気に溶け込みでもしたかのように消えてしまった。

サフィラは驚きはしなかった。
この灰色の世界の中では全てが幻のように感じられ、人が忽然と姿を消すことも何ら不思議なこととは思えなかった。
それよりも、あれは誰だったのか。その思いだけがサフィラの中に残った。
予知にしてはあの輝く女騎士のイメージは余りにも鮮やかだった。

彼方からの呼び声がサフィラの物思いを破る。
さっきからサフィラの名を呼びかけているあの声だ。
サフィラはもう一度目を閉じた。
体がゆうるりと声のする方に流れていくが、声は少しも近くならない。幾重にもサフィラを取り囲む靄のあちら側から研切れ研切れにその声は届く。

 サ…フィラ……サ………フィ…

遠くから、彼方から聞こえる声。

誰の声だろう。一人ではない。幾人もの声がする。
誰だろう。その声の主らを私はよく知っている筈だ。

遠くから、彼方から聞こえるあの声。
遠くから聞こえる……遠く……遠く?

「……違う。近いっ」

サフィラは思わず叫んだ。

途端に耳元で色々な音が交錯した。
紙が重なる音、臘燭が燃える音、陶器が触れ合う音、布が擦れる音、水の滴が落ちる声。

そしてそれに重なるようにして、声が思いがけず近くで聞こえた。

「サフィラ、サフィラっ」

不思議と切迫したようなその声にサフィラはゆっくりと目を開けた。
灰色の闇の代わりにぼんやりとした臘燭の明りが目に映り、サフィラは見慣れた部屋の中で三つの顔が自分を取り巻いているのを見た。
どれも見慣れた顔である。
一つは老女、一つは黒髪の青年、そしてもう一つは穏やかな笑みを浮かべた老人の顔だった。



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