麻与香は言った。
「あたし? あたしはフツーよ。ただ他の人間よりも少しばかり自分の武器になるものが多いだけ。
でも、フウノは違うわね。あたしも他人も持ってないものを持っている」
「……」
「ねえ、 『フウノ』 ってニホンの苗字でしょ? あたしの名前もそうだけど」
「なんでそんなこと聞くのさ」
「アンタに興味があるって、さっき言ったじゃない」
「あんたには関係ないよ」
あらゆる人間の興味を引きつける威力を持つ女。
その女が、こともあろうに自分に興味を持っている。
そう考えただけで J は気が滅入った。
ハッキリ言って、迷惑だった。麻与香にもそう言った。
「迷惑なんて言わないでよ」
言われた麻与香は J に顔を近づけた。
艶やかな香りが J の嗅覚を刺激する。
「あたしね、正直言って他人に関心を持ったことなんかないのよ。
だって興味深い人間なんてこれまで一人もいなかったもの。
でも、覚えてる? この前アンタとすれ違いざまに目が合ったこと」
覚えていたかったわけではないが、忘れてはいなかった。
そう、あの時だ。
J の足が竦んだあの瞬間。
「あの時にね、気付いたのよ。フウノの周りを囲んでる空気に」
「空気?」
「そう。あたし、アンタから目が離せなかったわ。
その空気の正体を見定めてやろうと思ったのに。
でも分からなかった。それから興味がわいたのよ」
2人の人間の視線がかち合った瞬間。
あの瞬間から、J は麻与香を避け、麻与香は J に執着し始めた。
でも、何故。
J はいよいよ不可解の虜となった。
「そうね。何でかしら。あたしなりに考えてはみたのよ。
ぱっと見には、ただの小娘なのに、何があたしの気にかかるのか……。
最初はね、アンタがいつでも誰といてもハグれてるところだと思ったわ」
「ハグれてる?」
思わず J が聞き返す。
「そうよ。あんたは世の中にウンザリしてる。疎ましくてしょうがない。
だから人の中にはいられない。
そういう人間って自然と群れから外されるもんだけど、あんたは好きで自分から外れてる。
ガキのくせにね。でも、そういう心境って誰にでもあるものだわ。あたしにもね」
「あんたにも? そういうのって、あんたとは無縁の心境に思えるけど」
J は言い切った。
その口調には、冗談じゃない、というJの思いがありありと浮かんでいる。
「あんたのどこがハグれてるって言うのさ?」
「ハグれてんのよ」
妙に断定的な調子で麻与香は言い切った。
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