毎日毎日、麻与香は J の姿を見かけるたびに近寄ってきた。
一方的に他愛もない話題を振りまき、一方的に J を質問攻めにする。
その答えも待たずに一方的に去っていく。
翌日になれば、また同じことが繰り返される。
まるで毎朝、鳥カゴの中の鳥に語りかけ、言葉を教えでもするような調子で。
何なんだ、この女。
麻与香の態度は当然 J の反感を誘った。
毎日同じ人物に話しかけて、それを100日続ければ望みがかなう、という迷信の類だろうか。
まさかそんな、と思いつつ、そういう馬鹿げたことまで考えてしまう J であった。
そういう状態が半月以上も続いたある日。
不可解さから逃れたい一心で、J はついに麻与香に尋ねた。
「あのさ」
「何?」
麻与香の声が蠱惑的に響く。
「これって、一体何のゲーム?」
J の質問に、麻与香はすぐには答えなかった。
目の前で悪魔的な微笑が浮かんでいる。
「やっと聞いたわね」
してやったり、という表情が麻与香の美貌を支配していた。
J は尋ねたことをすぐに後悔した。
「実はちょっとした賭けをしていたのよ」
「賭け?」
あからさまに不愉快さを浮かべた表情で J は麻与香を見据えた。
それに対して、当の麻与香は口の端を少し上げて、もう一度笑って見せた。
「そうよ。ま、賭けって言っても、あたしが勝手に自分相手に賭けてただけの話なんだけど」
「何、それ」
「率直に言うとね、あたし、アンタに興味があるのよ、フウノ」
麻与香はそのまま口を閉ざして J の反応を待った。
J が黙ったままでいるつもりなのを見て取ると、小さく息をついて言葉を続ける。
「フウノ。アンタってさ、フツーの顔してカレッジなんか通ってるけど
どっかフツーじゃないってコトに自分で気付いてる?」
「……」
「ああ、言っとくけど 『フツーじゃない』 っていうのは、
『おかしい』 とか 『変』 とかいうイミじゃないから。
そうねえ……『他の連中と違う』 っていう表現の方が近いかしら」
思いもよらない麻与香の台詞が J を驚かせた。
たった今自分が言われた言葉は、そっくりそのまま麻与香の方にこそ当てはまるだろうに。
そう伝えると、麻与香はもう一度笑った。
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