忍者ブログ
蝶になった夢を見るのは私か それとも 蝶の夢の中にいるのが私なのか 夢はうつつ うつつは夢


[230]  [229]  [228]  [227]  [226]  [225]  [224]  [222]  [223]  [221]  [220
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

キャンパス内を颯爽と歩いていた麻与香の姿は今でも J の脳裏に焼き付いている。

特異な存在だった。
男の目を引くには充分すぎるほどの美貌を持つ女。
しかし、彼女自身は特定の相手を作ることもなく、取り巻きに囲まれるに任せていた。

女王様気取りだ、まるで。
ちやほやされて舞い上がっているだけの女。つまらない。
遠巻きに麻与香の姿を見る度に J は思ったものだ。

J は他人と一緒にいることが苦手で、単独行動を取ることが多かった。
それ故に麻与香の女王ぶりは、いっそう胡散臭く思えた。


ある時、J はさざめきながら構内を歩く麻与香の集団とすれ違った。
そのために、いつもより近くで彼女を観察する機会に恵まれた。
J 自身は特にその気もなく通り過ぎ、何気なく目を麻与香に向けた。

J はふと気が付いた。

まわりに群がる連中の浮かれた表情とは対称的に、麻与香の目は冷ややかだった。
長い睫に隠れた瞳に、疎ましげな色が浮かんでいるのが見えた。

その瞬間、麻与香も J を見た。
2人の目が合った。
麻与香は J を見つめた。

長い時間が経ったような気がした。
そして次の瞬間、麻与香は J に向かって婉然と微笑みかけたのだ。

麻与香の笑顔は、J の歩みを凍りつかせた。

鳥肌が立った。
何故かは分からない。
だが、本能的に、そして瞬時に J は悟った。

まるでクモのようだ。この麻与香という女。
その目だけで、蝶を絡めとるように人を捕まえる。

たった今、自分自身の足を竦ませたように。

J は視線を無理矢理麻与香から引き剥がし、足早にその場を去った。
背後に麻与香の目が突き刺さっているのが痛いほど感じられた。

あの女には極力近寄らないようにしようと、J は思った。
近付けば近付くほど、目に見えないクモの糸で身動きが取れなくなりそうな気がした。

しかし、J の決心はいともたやすく裏切られた。

翌日、J に言葉をかけてきたのは、麻与香の方だった。

「ねえ、フウノ」

麻与香は J に呼びかけた。
その翌日も、そしてその翌日も。
視線が合ったあの日を境に、麻与香は日を置かずに J に話しかけてくるようになったのだ。



→ ACT 2-15 へ

PR
この記事へのコメント
name
title
color
mail
URL
comment
pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

secret(※チェックを入れると管理者へのみの表示となります。)
この記事へのトラックバック
TrackbackURL:
プロフィール
HN:
J. MOON
性別:
女性
自己紹介:
本を読んだり、文を書いたり、写真を撮ったり、絵を描いたり、音楽を聴いたり…。いろいろなことをやってみたい今日この頃。
最新コメント
承認制なので表示されるまでちょっと時間がかかります。(スパムコメント防止のため)
[02/07 名無権兵衛]
[06/20 ななしのごんべ]
[05/14 ヒロ]
[04/19 ヒロ]
[11/06 ヒロ]
いろいろ
ブログパーツやらいろいろ。
※PC環境によっては、うまく表示されない場合があります。


●名言とか





●ブクログ





●大きく育てよ、MY TREE。



●忍者ツール



ランキング参加中
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
月毎の記事はこちら
ブログ内検索
携帯版バーコード
RSS
Copyright © 日々是想日 All Rights Reserved.
Powered by NinjaBlog  Material by ラッチェ Template by Kaie
忍者ブログ [PR]