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蝶になった夢を見るのは私か それとも 蝶の夢の中にいるのが私なのか 夢はうつつ うつつは夢


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あの目だ。
阿南は女の顔立ちを思い出す。

キツい、猫のような目。
真っ直ぐな抜き身のナイフのように鋭かった。
それでいて、クリスタルのように恐ろしいほど澄んでいた。

女の目が、自分の中に流れる血をざわりと騒がせたことに阿南は気づいていた。
それはある種の、かなりキナ臭い類の衝動に近い感覚だった。

女と視線が合ったあの時。
阿南の奥底に隠し込んでいた筈の不穏な感覚が一瞬、鎌首を持ち上げた。
争いに明け暮れていた頃の、生きることに貪欲な頃の感覚。
女の視線はそれを阿南に思い出させ、本能に直接突き刺さった。

阿南の中から蛇のように音もなく忍び出たその感覚は、
発した本人が自覚する間もなく女へと向けられた。
女の方は確実に 『それ』 を察した。
そして、阿南の方は女が察したことを、察した。

一瞬だけの、気配の絡み合い。
あの時、さわり…と細波が肌を走ったのを阿南は覚えている。
その感触は、普段はあり得ないささやかな混乱を阿南にもたらした。

気がついた時には、女の姿は自分を離れ、遠い門の向こう側にあった。

今の感覚は何だったのか。
女を睨みながら、阿南は自問した。
阿南の心臓がざわめき、奇妙な息苦しさを呼び起こす。

隣で仁雲が、

「やっぱり、いい女だなあ」

と呟く声が、阿南の耳から耳へと通り抜けていく。
仁雲に答えるわけでもなく、阿南はぼそりと言った。

「ヤバいな……」

その声の苦さに気づいた仁雲が怪訝な顔を向けたが、阿南は無視した。

例えば。
阿南の心の中で、一つのイメージが勝手に浮かび上がる。

例えば胸元に銃口を突き付けられて、
いつ気紛れで引き金を引くか分からない緊張感。
そんな中で視線を絡め合い、抱き合うような女。
女の瞳は猫のように澄んでいて、鋭い矢尻のように尖っている。
どうしても目をそらせない……。

これは、どう考えてもヤバいだろう。

そこまで考えて、ようやく阿南は我に返った。
頭を2、3度振って、妄想めいたイメージを急いで打ち消す。

一体何を考えてるんだ、俺は。
今日、初めて会った女だぞ。
苦々しげに阿南は心の内で舌を打った。
これでは仁雲の軽々しい性分を非難できない。

もしも隣の仁雲に阿南の心を読み通すことができたなら、きっとこう言うだろう。

『いつも女には慎重な阿南さんが、そこまで気にかけるなんてね。
まさか一目惚れってヤツですか? あのヤバそうな女に』

冗談じゃない。
阿南は頭の中に浮かんだ想像上の仁雲の言葉を、自分で打ち消した。
あんな得体の知れない女など、お断りだ。



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