那音からいきなり突きつけられた、調査への協力。
動き始めたばかりだというのに、このタイミングの良さは何だろう?
都合がいいといえば、いい。しかし、よすぎやしないだろうか?
訝しむ理由は充分である。
速いペースで物事が運ぶのを J は余り好まない。
しかも、他人のペースで。
その他人が那音だったら、なおのことだ。
この男がどんなナイショ話をしてくれるのかは判らないが、果たしてその裏にある意図は?
だが。
J は自らの疑り深さを心の隅に無理やり追いやった。
とにかく、情報がなさ過ぎるのも事実だ。
そう考えると、那音の申し出は、何かを得るチャンスになるかもしれない。
ロクデナシとはいえ、対外的には 『腐っても役員』 というポジションにいる那音である。
真っ向からハコムラに切り込んでいくよりも
裏口ならではの思いがけない情報が、もしかしたら転がっているのではないか?
焦る必要はないと思うが、
せめてツーペアぐらいの手の内は得ておきたい。
切り札、とまではいかなくても。
まあ、いいか。
J は自分を納得させた。
腹の内では何を考えているのか判らないが、
今ここで、那音が隠し持っているカードを見せてもらうのも悪くない。
今は流れに乗っておこう。
「じゃ、行くか」
不承不承納得した様子の J に目をやり、
運転席に嬉々として乗り込んだ那音だったが、
スタートさせようとした時、車がガクンと大きく揺れて止まる。
J は思わず那音の顔を見た。
視線に気付いた那音は少しバツが悪そうに笑った。
気を取り直したように、ペダルを踏みなおしたが、
再び大きな揺れが車に襲いかかり、エンジンが止まる。
それが何度か繰り返され、
跳ねては止まり、止まっては跳ねる車の様子に、J がイラついた表情を見せた。
「……那音、この車、ウサギ跳びしてっぞ。最近の車のハヤリ?」
「いや、そういう面白い機能は付いてないんだけど。
買ってまだ間もないんだよ。だから、ちょっとまだ扱いに慣れてなくってよ」
そういう問題だろうか?
J は皮肉な視線を那音に向ける。
言い訳めいた口調で弁解しながらギアを騒々しく入れ替える那音だが、
やはり車は不愉快な揺れを繰り返すだけだった。
「……歩いた方が早いんじゃないの?」 と、J。
「というか、わざわざハコムラまで行かなくても
話があるなら今、車の中ですればいいじゃん。その方が手っ取り早い」
「まあそう言うなって。こんな狭いトコロじゃ落ち着いて話なんてできねえよ」
答えながら、那音は二度ギアを動かした。
途端に車が急発進する。
反動でシートに軽く叩き付けられた J は思わずため息を吐いた。
下手くそめ。
しかし、スタート時のエンストなど、運転中の那音に比べたらまだましな方だった。
J はそれを身をもって思い知ることになる。
急ブレーキ、急発進は当たり前で、運転自体も荒い。
スピードを出し過ぎないだけ、まだ救いがあるが、
根本的にこの男はドライバーには不向きなようだ。
那音の車に乗ったのは初めてだが、この短い時間の内に J はそう確信した。
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