いきなり態度を変えた目の前の女に対して、男達はしばし当惑の表情を隠せずにいた。
しかし、すぐに男A の方が、血の気が多い気質そのままに顔を赤らめ、
目を吊り上げて J を睨む。
「小娘がっ……」
男A は吐き捨てるように呟いた。
小馬鹿にされたり、罵られることに慣れていないのだろう。
今までに何人もの相手を圧し、脅し、
萎縮させるのに成功してきたであろう男A の負 - マイナス - の矜持が、
一筋の怯えも見せない J によってかすかに傷つけられた、それが許せないようだ。
一歩前に踏み出そうとする男A を、男B が慌てて止める。
「マズイっすよ、タカギさん。アイツの」
男B は男A をつい名前で呼び、顎で J を指した。
『お嬢さん』 呼ばわりするのは放棄したらしい。
「素性が判れば、それで済む話なんですから、
ハデな騒ぎになったら、こっちが面倒ですよ」
「ふん、こんなシケた空き地で騒いだところで、誰が見てるっていうんだ。
俺は、この女が気に入らねえ。素性なんて知ったこっちゃねえぞ」
「……てめーは、頭に血が上って人生失敗するタイプだな、タカギさん」
ふふん、と鼻を鳴らして J が冷たい目で相手を見る。
「気に入らないからって、ヒステリー起こして命令放棄してるようじゃ、
てめーの仕事っぷりも大したことねーぞ」
「な……」
赤いを通り越して、男A の顔色がどす黒くなっていく。
それに比例するように、J の口調は、ガラの悪さを増していった。
「だいたい、他人様を気に入る、気に入らない、って言えんのか、てめー。
脅して言うコト聞かせようとする男なんざ、今どきハヤんねーんだよ。
それとも、脅さないと女にも相手にされないか、あ?」
「このっ……」
もはや修復不可能である。
2人のやり取りを一歩離れたところで聞いていた男B はため息をついた。
感情を激するまでに費やす時間の短さ、という点だけに着目するなら、
自分の相棒であるタカギと、この女は似ているかもしれない。
男B はふと、そんなことを考えた。
意のままにならぬ相手に対して、あっけない程簡単にバトル・モードに突入したタカギ。
マシンガンのように悪辣な言葉を投げつける女。
そして不穏な会話に関して言えば、相棒の方が女に押されている。
悪意を込めた言葉を矢継ぎ早に、そして効果的に相手に繰り出せるほど、
タカギの頭は良くはない。
それに反して、女の方は、相手の激昂をあからさまに誘っているようで、
しかも、その目的を完全に達成している。
両者を交互に見ながら、それまでの涼しげな表情はどこへやら、
もはや諦めと焦りの混じった顔つきの男B を間に挟み、
似た者同士の2人は、牽制とも威嚇とも取れる険悪な視線を互いに相手に這わせた。
と。
緊迫した空気が流れる中。
3人の耳に、自分達のものではない足音が届いた。
男達の背後からである。
「お?」
J は音のした方向に目を凝らし、
残りの2人は、J の動向に注意を払いながらも、ゆっくりと振り返る。
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