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蝶になった夢を見るのは私か それとも 蝶の夢の中にいるのが私なのか 夢はうつつ うつつは夢


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 先日、マンマから 「こんなもんが出てきたよ」 と、古いノートを何冊も渡された。

「なんだこれ?」 と中を見てみると、見覚えのある字が几帳面に綴られている。
どのノートにもびっしりと、こまかく、万年筆のインクで書かれた文字。

これはオヤジさまの字だ。


ウチのオヤジ (母を 「マンマ」 と呼べても、父を 「パパー」 と言えないのは何故だろふ) は
数年前に病気で亡くなったんだけど、
最後の数年間はほとんど寝たきりだったので
ペンを持って何かを書いている姿なんか、ほとんど見たことがなかった。
だから、そんなノートがあるなんてまったく知らなかったし、
今頃そんなものが出てくるなんて、と、ちょっと驚いた。


どうやら、これらのノートは
発病する前に書かれたものらしい。

一体どんなことが書いてあるのか気になって、中を開いてみた。


ノートの内容はいろいろだった。

英会話の例文がびっしり書き込まれていたり、
歴史、特に古代史についての記事や覚書が年表のように書かれていたり、
中には、フランス語で丸々一冊書かれているノートもあった。

まるで、学生が授業中に一生懸命黒板を書き写したような、
そんな勉強の跡が見られるノートばかり。


もともと英語の先生をしていた人だから、英語関係のノートがあるのはわかるけど、
フランス語までやっていたとは。

いや。
そういえば、思い出した。

いつ頃からだったか、テレビのフランス語講座を毎回見るようになり、
テキストも毎号買って、なにやら熱心に勉強していた……ような気がする。


歴史について書かれたノートは一番たくさんあって、
一冊一冊に律儀にナンバリングしてある数字からすると、きっと他にもまだ何冊かあったらしい。
オヤジの本棚に古代史関係の本がたくさんあるのは知っていたけど、
ここまで本格的に自分で研究しているとは知らなかった。

学者肌の人だったからなあ。
先生を退職した後も、自分でいろいろ勉強していたんだなあ。
そう思うと、元気だった頃のオヤジさまの姿をいろいろ思い出し、
なんとなくしんみりしてしまった。


そして、そのノートの中に一冊だけ、なんと日記が混じっていた。


日記。
オヤジさまの日記。

そんなものを書いていたとは知らなかった。

オヤジさまは、あまり喋らないタチの人だった。
といっても、物静か、というわけではなく、癇癪を起こしたり、ワガママを言うこともよくあった。
つまりは、会話でコミュニケーションをとるのがあまり上手ではなかった。

そんな人が、一体何を日記に書いていたのか。
とても興味があった。

父親の日記を読む、というのは、なんとなく娘としてはタブーっぽい感じがしたけど、
これも形見のひとつと思って、中を見てみた。


びっしりと書かれた文字の、まあ、こまかいこと、こまかいこと、といったら、
歴史のノートにも負けないくらいの文章量。

日付からすると、ワタシがまだ大学生だった頃の時期に書かれたもののようだ。
これにもナンバリングがしてあったから、きっと他にも何冊かあるのかもしれない。

日付、曜日、天気。
その日にあったこと。
家族のこと。
毎日毎日、欠かさずに書かれている。

馴染みの喫茶店にコーヒーを飲みに行ったことや、
当時オヤジさまがやり始めていた株について、値が上がっただの下がっただの、
野球で巨人が負けたとか、
風邪をひいて一日中家にいたとか、
ワタシや姉が帰省した時のこととか。

意識してそう書いたのか、文語調の文体はなんとなく明治時代の人を思わせて、
その点を除けば、なんてことはない、いわゆる 「日記」 だ。
フツーの。

いや、まあ、他人に読ませるものではないんだから、フツーでも全然かまわないんだけど、
オヤジさまの日記、ということで、ちょっと気負って読み始めたワタシは、若干、拍子抜け。


そうしてペラペラとページをくっていくうちに、
ふと、ある日の内容に目が留まった。

それは、ワタシや姉が実家に帰省した、冬の日の日記だった。

こう書いてあった。


          一生涯、子供達と一緒にいられる訳ではないし、結婚して子供を持てば家庭中心となって
          従来の親子関係も次第にうすれていくのだから、
          子供に何時までも執着すべきではないと思うものの、
          やはり子供が側にいてくれないと寂しい思いがする。
          子供とはいつかは別れなければならないものと割り切って、
          一人立ちするまで淡白に親子のつきあいをしていればいいのだろうが、
          なかなかそういう境地になれない。世間の父親はどうなのか。


…………。
…………。
何度も読み返してしまった。


前にも書いたけど、オヤジさまは人との会話がヘタな人だった。
それは家族との会話にも言えることで、ぶっきらぼうな言葉しかかけられず
機嫌のいいときには少し饒舌になったけど、
それ以外のときは気難しくて、ワガママで、癇癪もちで、プライドが高くて、
時には娘のワタシですら 「扱いづらい人」 だと思うことがあった。

そのオヤジさまが、こんなふうに思っていたなんて知らなかった。
こんなことは一言も口には出さなかったし、
ここにも書かれているように、この頃のワタシ達の親子関係は結構淡白な感じだった。

だから、今これを読んで、今になってあの頃のオヤジさまの心境を見せつけられ、
ワタシたちのことをいろいろ考えていたんだなあ、と知ってしまうと
なんとなく泣きそうになってくる。
何に対してかは分からないけど、とにかく 「ごめんなさい」 と言いたくなる。
きっと全てのことに対して。
もっと話をすればよかったとか、
「扱いづらい」 を理由に、ちょっと避けてしまったりとか、
そういういろいろなこと全てに対して。


親が生きているうちは、「いつかは親もいなくなる」 という事実にとても鈍感だった。
だって、自分が生まれる前からいて (当たり前だけど)、
ずっと一緒に暮らしてきて、
そんな人がいなくなるなんて、頭の中では一般論程度に理解していたけど、
それがどういうことなのかは全く想像できなかった。
だから、ケンカもしたし、腹が立つこともあったし、ひどいことを言ったりもした。
かなり厳しい人でもあったから、子供の頃なんかは
怒られた時に、「親なんていなきゃいいのに」 などと思ったこともあった。

それは全部 「本当にいなくなる」 ことなんてない、と思っていたからできたことだ。

でも、「本当にいなくなる」 のだ。

皮肉なことに、「本当にいなくなる」 まで、ワタシはそのことに気づかなかった。
たとえ、寝たきりになったとしても、
不思議なもので、そのまま、寝たきりの状態で、ずっと 「いる」 ものだ、と思っていた。


そして、本当にいなくなった後は……後悔ばかり。
あの時こんなことをするんじゃなかった。
もっとこうしてあげればよかった。
何であんなことを言ったんだろう。

全部が後悔。
「ごめんなさい」 の連続だ。

ずいぶん親不孝な娘だった、という自覚がありありなワタシは、
オヤジさまが亡くなった当時、そんな後悔ばかりでかなりヘコんでいた。


オヤジさまは 「世間の父親はどうなのか」 と日記に書いてるけど、
ワタシとしては、「世間の子供たちはどうなのか」 と聞いてみたくなる。

親がいなくなった後に沸き起こる後悔は、どうやったら消えるんだろう。


……などなど、この日記を読んで、ワタシ自身がいろいろなことを考えてしまい、
昔のことなどもあれこれ思い出し、再びヘコみ気味。
このまま読み進めていくのが、ちょっとコワイ。
何度もヘコみそうで。

でも、読まなければいけないような気もする。
オヤジさまが何をどう思っていたのか、
話すのがヘタだったあの人が、何を考えて日記を綴っていたのか、
今はもういない人だけど、せめてそれぐらい娘として知っておかなきゃいけない。

いや、知っておきたい……んだろうなあ。ワタシが。


というわけで、
もう少しこの日記と付き合ってみようと思っている、ワタシなのでした。
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