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蝶になった夢を見るのは私か それとも 蝶の夢の中にいるのが私なのか 夢はうつつ うつつは夢


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『王の間』 はヴェサニール城でも最大の広間で、奥行きの深さはさることながら、その遥かに高い天蓋が堂々たる威圧感を持って床上の人々を見下していた。
部屋全体はそれほど華美な造りを呈してはおらず、王城の中央の間としてはむしろ地味な方ではあったが、一国の主が控えるに相応しい重厚な調度品や装飾が適度に空間を飾り、訪れた者の心を恭しくさせるには充分だった。

閉鎖された空間が苦手な王の意向に従って、三方の壁には無数の窓が作られており、位置が高くなるにつれて窓の大きさが広がっていくので、下から見上げる者の目にはどの窓も一様の大きさであるように映った。
残る一方の壁には歴代の王の名を美々しく綴った薄青い石板が一面を覆っており、窓から差し込む日の光がそれに反射して不思議な色の光の帯が広間の中ほどに浮び上っている。

石板を背にして、漆黒の天鵞絨を貼った玉座が二つ並んでいた。
ヴェサニール国王とその后のためのものである。
高い背もたれや大きく張り出した腕の部分は大粒の碧玉で縁どられ、時折石板から反射した光を更に映し取って深い海のような青緑に色を弾いていた。
各国からの使者がヴェサニールを訪ねてきた場合、王と王后はこの『王の間』でその者たちに会うのが常となっていた。

その日トリビアとリヴィールが噂していた通り、確かに王の様子は妙だった。
城を抜け出したサフィラを目の前にして、いつも飛び出す第一声である

「またやりおったな、サフィラ」

の代わりに王の口から出た言葉は、

「おお、戻ったか。疲れたであろう。掛けるがよい」

である。
あまつさえいそいそと椅子を勧める始末で、例のない父親の反応にサフィラはかすかな不審の念を抱いた。王の側で母后が妙に落ち着かなげに夫と娘の顔色を交互に見比べているのにも、サフィラは気にかかった。

何かある。

当然の如くサフィラの胸中の不審は大きくなっていった。
よくよく気付いてみれば、浮き足立っているのは王と后だけではない。
侍従のクェイトも奇妙な面持ちで二人の傍らに控えている。
その表情はといえば、歓喜と憂慮が同居しているように見える。
喜ぶべきことがあるにはあるのだが手放しで喜ぶわけにはいかない、という複雑な自らの心境を持て余しているといったふうな様子である。
この部屋に居合わせる全ての人間が (入り口のところに立っている扉番の二人の少年までもが)そういう態度で控えていた。

勘が良くなくては魔道騎士はつとまらない。
ましてこのあからさまな緊張感が漂う場の中、サフィラが不審の念を感じなかったとしたら騎士の資格はないと言うべきであろう。姉妹侍女の大仰な話し振りを差し引いてもこの雰囲気は怪しすぎる。

サフィラの疑わしげな視線を避けるかのように王は王座の前を行きつ戻りつしては、なかなか話を切り出そうとしない。今一つ落ち着かないといったふうである。

「父上がお呼びだと聞いたので参上したのですが」

幾分強い口調でサフィラは言った。
どう振舞ってよいか分からない時はいつもサフィラは強い態度に出ることにしていた。
この時もそうだった。

「ああ、そう、そうだったな、うむ。うむ、うむ」

そして娘に強い態度に出られると決まって弱腰になってしまうのが父王だった。
サフィラが王女らしからぬ振舞いをし、魔道騎士になることを結局認めてしまったのも、その娘への気弱さが災いしたと言えよう。

そして更に付け加えるならば、不思議なことに王がおたおたし始めると、逆に態度が毅然としてくるのは后の方である。この時も、言葉を出し渋っている夫の姿を見兼ねて、はっきりとした調子で口を開いたのは母親の后だった。

「言い淀んでどうするのです。貴方が言えないのなら私から言いますよ」

「そうは言ってもどう切り出したらよいものか」

「どう切り出したところでサフィラにとっては同じ事。話をしてもいないのに娘の反応ばかり先読みしても意味がないでしょう。仕方がないから私の口から言いますわ、よろしいですわね」

「う、うむ……お前、時々とても頼もしいな」

「貴方が時々とても頼りないだけですわ」

「た、頼りないって、お前」

「夫婦の掛け合いはそこまでにしていただきたい」
幾分冷めた口調でサフィラが言葉を投げる。
「話があるなら迅速かつ明瞭に、さらに簡潔にお願いいたします」

「そうですね。さて、サフィラ」
后はおもむろに娘の方を向き、玉座から下りてサフィラに近付いた。
「では、迅速かつ明瞭、簡潔に言いましょう。実は先程隣国のフィランデから使者が一人見えました」

「フィランデ? ……緑の服の?」

サフィラはおうむ返しに言った。后が怪訝な顔をする。

「はい?」

「いえ、こちらの事」

トリビアのいい加減な憶測が当たっていたと知るとリヴィールはどんな顔をするだろうか。
サフィラはどうでもいいようなことを考えながら、后の言葉を促した。

「それで? そのフィランデの使者とやらが一体どんな知らせを持ってきたというんです。私に関係があるんですか」

「実は……」

后は微かに言葉を切った。

サフィラは何となく嫌な予感がした。



          → 第一章・ヴェサニールの魔道騎士 9 へ

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