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蝶になった夢を見るのは私か それとも 蝶の夢の中にいるのが私なのか 夢はうつつ うつつは夢


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誰の上にも、夜は平等に降りてくる。

ヴェサニールの王は、その日ようやく娘の婚約式を終えたことで、抱えていた悩み事の半分以上が片付いた心地になり、夜の訪れとともに健やかな眠りの世界に落ちていた。

その隣では后が、今日という晴れの日に娘が着ていたドレスの銀糸の刺繍を金糸にした方が良かったのではないか、と気を揉んでいたが、やがて王の寝息に誘われるように自らもまどろんでいった。

王女の部屋から少し離れたところにある侍女部屋では、似たような顔つきをした二人が、似たような寝顔で、似たように寝返りを打ち、翌朝早くから再び始まる慌しさに備えて深い眠りについている。

ヴェサニールの城では、夜回りに当たる幾人かの兵士達を除いたほとんどの人々が安らかな夢の世界の住人となり、城全体が平和な静寂でおおわれていた。


キィ……と、どこかで窓が開く音がした。

城の中でも居館と呼ばれる建物にはヴェサニールの王族とその近しい臣下達の私室、そして客人達のために用意された客室がある。
今、その居館にある一室の窓がゆっくりと開け放たれようとしていた。
月の光に明るく照らされた外壁とは反対に、四角く切り取られた闇のような窓の内側から、一つの人影がそっと現れる。

寝静まった夜の空気の中、思いのほか響き渡った窓の軋みに驚いたように、人影はそっと暗い部屋の中に身を退いた。
しかし、誰も起き出した気配がないことを確認すると、再びゆっくりと窓の側に近づいた。

マントのフードを目深にかぶり、窓から下を覗き込むように窺っていた人影は、ふと夜空に目をやった。その拍子にフードの内側に月の光が差し込み、一瞬その幼くも整った顔を浮き上がらせた。

サフィラである。

両手を左右の窓枠に押し付けながら、サフィラは慎重に窓の桟によじ登った。
窓の外には手すりがなく、登った拍子に身体のバランスを崩して落ちそうになるのをこらえながら、サフィラは、やれやれ、と小さくため息をついた。
夜中に窓から抜け出すというのも、なかなか大変だ。

つい先刻、夢見のせいで眠りを妨げられてから妙に目が冴え、再び寝付くこともできずにいたサフィラは、四日後、いや、すでに三日後に差し迫っている本格的な 「城出」 に先駆けて、事前に段取りを確認しておこう、と唐突に思いついた。
抜け出すついでに久しぶりにサリナスにでも会いに行くか……と、これも急に思いつき、たった今実行しようとしている夜間の脱走を企てたのである。


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