やがて、かわし続けるのにも飽きたのか。
タカギの足元がよろめいた隙をついて、女は自分の顔の横に突き出された腕を払った。
そこからだった。
男B が女の動きに違和感を感じたのは。
女は足を一歩前に踏み出し、タカギの腕を左手で掴んだ。
そして、片方の手でタカギの脇腹を突いた。
そんなに強く、ではない。ごく軽く。トン……ぐらいの勢いで。
少なくとも、男B には、そう見えた。
だが、タカギは身体を折り、そのまま地面に膝をついた。
女はその隙を逃さない。
タカギの手首を掴んだまま捻ると素早く背後に回り、もう片方の手で、次は肘を取った。
そのまま、タカギの腕を背中から遠ざけるように、グイと真上に引き上げた。
ああ、あれはちょっと、いや、かなり痛いんじゃないだろうか。
タカギが思わず、うぉっと叫ぶのを耳にしながら、
男B は自分の腕が取られているような錯覚を起こし、眉をしかめた。
捻られて表側と裏側が入れ替わった腕を、
さらに普段とは異なる方向、つまり後正面に向かって無理やり曲げられようとしているのだから。
そして、腕が天を突いて身体から引き離されるにつれて、
もう一方のタカギの肩は、おのずと地面へ傾く体勢にならざるを得ず、
前のめりになっていくところを、あっけなく地面に引き倒された……というわけである。
その動作の全てが、
流れるように、
吹き抜けるように、
一瞬で行われた。
タカギの巨体が崩れた後、その場は沈黙に支配された。
不気味な、そして不穏な沈黙である。
あり得ない。
たった今起こった一連の光景を何度も頭の中で繰り返しながら、声に出さずに呟く。
殴る、蹴る、というありがちな手段なら、まだ判る。
少なくとも、つい先程タンカを切った女のキレっぷりから考えると、
そういう直接的な攻撃を仕掛けんばかりのノリと勢いがあった。
いや……やはり判らない。
何しろ、華奢な女 vs 大の男、というタイトルマッチそのものが
まるで子供の頃に見ていた、出来の悪い TV アニメのようで現実味がない。
さほど苦労もなく、しかも息すら乱れさせずにタカギを組み伏せる女の姿は、
男B にとって悪夢のようなものだった。
離れたところから2人が対峙する姿を見ていた他の2人、男C、D はといえば、
事ここに至っても動かず、面白いものを見たような表情で、軽い蔑みと好奇の視線を向けている。
勿論、前者はタカギに、そしてもうひとつは、女の方に。
男B は、男達を軽く睨んだ。
睨まれた方は、揃ってそっぽを向く。
心の声が聞こえるようだ。
『加勢しろなんて言うなよ。だったら、お前が行けばいい』
……どれだけ嫌われてるんだ、タカギさん。
男B はため息をついた。
いや、俺も決して好きではないけれど。
それにしても、少しぐらい手を貸したっていいだろうに。
そう思いつつ、男B 自身もそんな素振りを見せようとしないのは、
腕に自信がないから、という控えめな理由だけではない。
→ ACT 6-20 へ