男達は部屋の中央にあるソファセットを占領して会話している。
(もっとも、9割方はあーちゃんのマシンガン・トークだが。)
そんな図を、壁際から眺めていると、
いつもの見慣れたオフィス空間が、心持ち手狭に思えてしまう J である。
3人とも、図体だけはデカい。
阿南は言うまでもないし、諛左だって阿南よりはスマートだが、それなりの体格である。
痩せ型とはいえ、あーちゃんもかなり背は高い方だ。
改めてコーヒーを用意して部屋に入ってきた千代子の長身が、その場に加わると、
尚更のこと、微妙な密度感が増したような気がする。
「千代子さん、今日はもう上がっていいよ」
コーヒーを受け取りながら、J は千代子に目を向けた。
「客がいるし、戸締りはこちらでしておくから」
「承知しました」
千代子は J の頭に巻かれた包帯が解けていないことを、ちらりと確認だけすると、
いつものように言葉少なに答えた。
「お手数ですが、コーヒーカップは」
「判ってる。シンクのところに置いときます」
「ありがとうございます。では、お休みなさいませ」
「お休み」
男達にも軽い礼をして、静々と千代子は部屋を出た。
目の前に置かれたコーヒーには口をつけず、カップの温かさだけを J は指先で弄んでいる。
ついさっきまで階上で居留守を決め込みながら、
この茶色い液体だけで口寂しさを紛らわしていたのだ。
千代子には悪いが、さすがにもう胃が受け付けない。
「あ、やっぱり、マセナリィ出身なんだ、アナンさん」
相変わらず、3人の会話は続いている。
あーちゃんの声が高く響く。
「多いよね、ここ数年。
内乱だかクーデターだか、アースのあちこちじゃ、いまだに騒がしいけど、
それが収まったら、『元・マセナリィ』 はもっと増えるんだろうなぁ。タイヘンだよねぇ」
「あと十数年は収まらない、と言われているがな」 と諛左。
「数十年、と言うべきだ」 阿南が訂正する。
「俺達が年老いて、あの世に行って、その子供の子供の、また子供が生まれる頃になれば、
マセナリィなんて職業は、過去の遺物になっているかもしれん。
ま、子供を作っていれば、の話だが」
「逆に、その頃には」 今度は諛左が補足する。
「今とは違う新しい争いのタネが起こって、バカ騒ぎが拡大しているかもしれないぞ」
「先は見えんな」
「まったく」
あーちゃんのテンションは別として、明るい会話の内容とは言えないようだ。
J はといえば、男達の会話に加わる気もなさそうで、
ただ聞いているのにも飽いてきたのか、そっと立ち上がるとデスクから離れ、
今いる部屋よりも扉1枚を隔てて更に奥にある、J 自身の部屋へ静かに場所を移動する。
今日一日でいろいろなことがあった。
それらを一度頭の中で整理する必要がある。
何よりも、疲れていた。
身体は勿論、精神的にも。
しばらく1人になりたい、という気分だった。
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